新型コロナウイルスが蔓延してからというもの、特殊清掃の現場でも様々な変化が起きている。
一例として挙げられるのが、清掃員を見る人々の目である。
全身を防護服に身を包む彼らは、コロナ対応に追われる保健所職員と間違われるのだという。
そんなある日、本作の主人公で特殊清掃員の山田正人に、金田さんという大家から連絡があった。
ある入所者の急逝
金田さんは何棟ものマンションを所有しており、そこには多くの高齢者が入居している。
そのため、入居者が部屋で亡くなることがあり、たまに山田に仕事の依頼がきた。
ある意味、金田さんは山田にとって常連なのである。
今回連絡が入ったのは、入居者の80代女性が急逝したからであった。
その女性は富さんといい、持病の発作が起こり自ら救急車を呼んだにもかかわらず、それからほとんど時間が経たないうちの不幸だった。
実は、金田さんの所有するマンションは山田の家の近所にあり、山田の奥さんは富さんを知っていた。
長い間、交通ボランティアに従事するなど、溌剌とした富さんの急な不幸に奥さんもショックを隠し切れない様子である。
遺品整理
遺品整理の依頼を受けてから、しばらく金田さんから連絡が無かった。
別の業者へ依頼したのか?と山田が思い始めたとき、金田さんから電話が入る。
金田さんに呼ばれた山田は、富さんの部屋に向かった。
部屋に入ると、意外なことに綺麗に片付けられているではないか!
金田さん曰く、遺品整理を頼む前に現状確認のため部屋に入ると、ゴミもなく整理整頓されていたという。
しかも、家具も家電も良いものを使っており、食料や日用品もたっぷりとあった。
なので、他の入居者に「欲しいものがあったら、ご自由にどうぞ」とお知らせした。
すると、あっという間に無くなってしまったのである。
富さんの遺したもの
その話を聞いた山田は一瞬、「それは火事場泥棒なのでは…」との思いがよぎった。
しかし、金田さんの次の言葉を聞き、考えを改める。
「きっと、富さんも喜んでいると思う」
つまり、こういうことだ。
金田さんの物件には高齢者だけでなく、生活保護受給者や母子家庭など、生活が苦しい人が多い。
そのうえ、このコロナ禍である。
職を無くし、さらなる窮状を訴える家庭も少なくない。
壊れた家電を直すことができず、食べ物にも事欠く。
ちょうどコロナが流行り始めた時期だったこともあり、マスクもアルコールも無い。
そんな中、富さんの遺したガーゼでマスクを作り住人同士で分け合うなど、どれほど富さんの遺品が役に立ったことか。
富さんは先述した交通ボランティア以外にも、様々なボランティア活動をしていた。
富さんの生前の口癖は、「人の助けになれたら嬉しいから」だった。
そんな富さんの思いを受け、金田さんは住人に遺品を分け合ってもらったのである。
富さんが遺したもの。
それは家具や家電、生活用品だけでなく、「少しでも助けになれば…」という善意の心に他ならない。
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