「闇に降り立った天才」赤木しげるの名言・名場面㊲
 通夜編part3『銀次へ贈る生命の物語』

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赤木しげるが安楽死を遂げるという展開に、百戦錬磨の猛者達も戸惑いを隠せない。
そんな中、金光住職の次に赤木しげるとの面談に向かったのは「東西戦」で共に戦った健である。

「いくら病気でも、ああして元気やのに何もわざわざ死ぬことあるかい!わいが止めてくる!」

しかし、赤木の心を動かすことはできなかった。
そして、3番目に名乗りをあげたのは金光同様、赤木と旧知の仲である鷲尾である。

「俺も健と同じ考えだ。赤木の意志を尊重するってのは…なるほど一見もっともで筋が通っている。しかし、そんなものクソ喰らえだ!あの赤木しげるが死のうって時に…分かったようなことは言いたくねえっ!俺は俺の思ったとおり、行かせてもらう!死んでほしくねぇんだ…!」

その場にいる全ての者の気持ちを代弁するかのような鷲尾の言葉。
だが、みな薄々気がついていた。
あの赤木しげるが、ことここに至って簡単に決心を翻すわけなどないことを。
となれば、赤木との最後の時にどう向き合えばよいのか…。
集いし者たちは、答えが見いだせぬまま時が過ぎていく。

そんな中、鷲尾が戻る。
やはりというべきか、説得虚しく赤木の意志を翻意させることは叶わなかった。




銀次

「三色銀次」の異名を持ち、職人芸ともいえるガン牌の達人である銀次。
いぶし銀という言葉がよく似合う齢を重ねたこの男が、第4の客人として赤木に迎えられる。

「ふ~ん…なるほど、そうか。ここで死ぬんか?」

部屋を見回しながら赤木に尋ねる銀次。

「ククク…フフ…」

その言葉に笑みで答える赤木。

「いいとこじゃねぇか…!こざっぱりしてて…死を迎える部屋としては最高さ」

銀次は、意外な言葉で会話の端緒を開く。
赤木も辺りを見渡し、「確かにいい感じだ。こりゃあ、金光に礼を言わなきゃいけなかったな」と酒を飲みながら納得の表情で頷く。

「一杯もらうぜ」

断りながら銀次は続ける。

「死ぬことは特別なことじゃねえ!そう言いたいんだろ?みな…死や病を忌み嫌い過ぎる。死ぬことは時に救いでもある!だろ?」

「まあ、概ねそんなところだ…確かに、みんな悲観的に捉えすぎている。考えようによっちゃあ、死のうと決めて死ねるなんて理想的なことだぜ…たいていは薬漬けにされて、訳が分からぬうちに死んじまうんだから」

「そうだな。分かっていても、たいていそういう最期になる。でも、やっぱり出来ねえのさ…死ぬと決めて死ぬなんて。パニクるでもなく正気を保ったまま、ちょっと隣に行って来るみたいに死ぬことなど、誰にでもできることじゃねえ」

「ククク…そうかな…」

「そうさ!これは…ちゃんと生きてきたヤツでなきゃ辿り着けない。若い頃から死を隣に置いてきた者だけが持つ、そのことを特別と考えない感覚。そして、今回みたいなことを段取ってくれる仲間。この両方を手にした者にしか出来ない。羨ましいぜ!普通は死までにその地点に辿り着けないのだから」 

なおも、言葉を繋ぐ銀次。

「だから本当に、めでたく羨ましい…しかし、それでも赤木…恐かねえか?どんな気分だ?これから死ぬって…心配じゃねえのかよ!赤木!」

実は、銀次はがんが再発し、もはや治療法すらなかったのである。

「まあ死んで、もし全てが消えるならそれまで…」

銀次の異変を感じ、冷静に答える赤木。

「まったくゼロなんだから心配するまでもない。もし、何かが…言うなら魂、あるいはある種の意識…生が残っているとしたら痛い・痒いという神経…あのしち面倒くさい体や脳と繋がってねぇんだから、生身の今より数段過ごしやすそうだ。つまり、意識が消えようと残ろうと心配するにはあたらない。フフ…楽チンさ…」

何という異端の発想!
銀次ならずとも、こんな発想をする人間が他にいるだろうか…。

「赤木…その魂や意識みたいなものは、あるのかな?」

縋るような目で聞く銀次。

「ククク…まるでない…とは言い切れねぇんじゃねぇか…俺たちは元々、無生物だった。人はみな昔、砂粒…海に溶けた塵だの砂利だのの淀みみたいなものだったんだろ。そこから原始的な生命が生まれ、進化し人間になった。だとすれば、無生物の中に生物の素…種があったことになる。その種ってのは乱暴に言っちまえば、ある意志…ある意識みたいなものだったんじゃないか。つまり、無生物の中にある生命になろうっていう気持ちとでもいうか…だから、無生物は生き物に変わりえた」

壮大な生命の物語を話す赤木しげるは、まるで悟りを開いた導師のようである。

「あるいは、こんな風にも考える。砂や石、水…俺たちが生命などと思っていないものも永遠のサイクルの中で変化し続けている。それは俺たちの計りを超えた生命なんじゃないか!死ぬことは…その命に戻ることだ…!」 

「消滅しねえのか?」

そう尋ねる銀次に、赤木は答える。

「消滅しようがねえのさ…すでに今あるものは存在し続ける!形を変えてな…そう意味では不死だわな」

赤木しげるの言葉に、銀次は涙が止まらなくなる。

「そんな話をしてくれ!もっと!恐いんだ…これで死ぬのかと思うと…」

赤木しげるは銀次に優しく語りかける。

「銀次、大丈夫…おっかなくなんかねぇんだよ!俺が先に死んでやる!綺麗に死んでやるから…!安心しろ!受け入れてやれ、死をっ…!出来る限り…温かく迎え入れてやれ…!俺の感触じゃ、死ってヤツはそう悪いヤツじゃない。出来るさ…お前にも出来る!俺が見てきた限りじゃ、あったかい人間はあったかく死んでいけるんだ。おっかなくねぇんだよ…銀次!」 




所感

勝負師として名を馳せた銀次。
だが、そんな彼もまた死を目前にし、恐怖に怯えていた。
当然だろう…。
人は死が怖い生き物なのだから…。

そんな銀次に語った、赤木しげるの壮大な生命の物語。
この話は東西戦決勝での退場シーンと重なる。
赤木しげるはひろゆきに言った。

「ひろ…俺たちは人間の前なんだったかな…?命は繋がっている…随分前から、俺はそんな考えをもつようになった。人間としての俺が滅んだら土くれになって、その後、何千年か経ってまた何かに再生される。海に溶けた微生物か魚か…犬コロか鳥か…だから、俺はいつ死んだって構わない。命は永遠。また再生されるんだからな…」

続けて、命よりも自分らしくある方が大切だと語る。

「ただ唯一問題なのは人間としての俺がくたばった時、この俺の“俺”という気持ち、意識が吹っ飛ぶ…そこが問題だ。つまり、平たく言えやあ…死ぬことは恐くない。いつでも死ねる。俺が恐れるのは俺が俺でなくなること。それだけはご免だ。そこだけは譲れない。分かるか?俺は…たとえ勝つにしろ負けるにしろ、赤木しげるとして勝ち、赤木しげるとして負けたいのだ」

この通夜編は、あの名場面を見事に回収する構成となっている。
全くぶれることなき赤木しげるの信念。
と同時に、私は「土に還る」という言葉の意味するものを、赤木しげるのおかげで初めて分かった気がした。

「そんな話をしてくれ!もっと!恐いんだ…これで死ぬのかと思うと…」

ガンが再発した現実にボロボロと泣き崩れる銀次に対し、赤木しげるが優しく語りかけるシーンは私まで涙が込み上げる。

「銀次、大丈夫…おっかなくなんかねぇんだよ!俺が先に死んでやる!綺麗に死んでやるから…!安心しろ!受け入れてやれ、死をっ…!出来る限り…温かく迎え入れてやれ…!俺の感触じゃ、死ってヤツはそう悪いヤツじゃない。出来るさ…お前にも出来る!俺が見てきた限りじゃ、あったかい人間はあったかく死んでいけるんだ。おっかなくねぇんだよ…銀次!」 

私はこの赤木しげるの台詞に、ある思いを抱いた。
きっと赤木しげるは数多の死に遭遇し、あたたかい人間の死に際を見届けてきたのだと。
だからこそ、“あったかい人間はあったかく死んでいけるんだ”と言い切ることができたのだろう。

そして、さりげなく銀次に“お前はあたたかい奴だから大丈夫”とエールを送っているのである。
そんな赤木しげるの言葉に魂が救われる銀次。

今回もまた心に沁みる赤木しげるの箴言であった。


天-天和通りの快男児 16(本ストーリー収録巻)

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