サッカー漫画「DAYS」~君は後悔のない1日を生きてるか~

マンガ・アニメ




「DAYS」。
この漫画はサッカーの名門・聖蹟高校を舞台にした、不器用な少年の物語です。
サッカー漫画といえば、「キャプテン翼」や「シュート」、最近では「ブルーロック」など数えだしたらキリがありません。
中でも、個人的にナンバー1の作品を挙げるならば、文句なしで「DAYS」です。

運命の出会い

中学時代、孤独で冴えない日々を過ごしていた柄本つくし。
そんな何の取り柄もない少年の人生が、サッカーの天才にして金髪の美少年・風間陣との偶然の出会いから大きく動き出します。

ふたりの出会いは、つくしが中学時代のいじめっ子に絡まれていたところを、風間が助けたことがきっかけでした。
そして嵐の夜、風間との約束を守るため満身創痍の体で駆け付けたつくしを見たとき、風間だけでなく読者もハートを鷲掴みにされたことでしょう。

そして、つくしと風間は聖蹟高校サッカー部で、かけがえのない仲間たちと躍動するのでした。




心に残る登場人物

本作はつくしの盟友・風間を筆頭に、水樹や君下、薄井など印象深い登場人物の宝庫です。
ここでは私の独断と偏見で、心に残る人物を紹介します。

主人公・柄本つくし

柄本つくしはいじめられっ子で不器用なうえ、父を早くに亡くし、母も車椅子生活と家庭環境も過酷です。
ですが、心優しい彼はいつも母親を大切にする孝行息子でもありました。
前述したように、風間との出会いによってサッカーという新しい地平に飛び立ちます。

私はつくしを見るたびに、かつてオランダ代表でピッチを駆け抜けたエドガー・ダービッツを想起します。
彼は誰よりも走り、攻守の要としてチームに貢献しました。

たしかに、ダービッツとつくしでは、風貌や性格は似ても似つきません。
体こそ小柄ですが欧州の屈強なストライカーにも当たり負けしないフィジカルと、“闘犬”のニックネームそのままの闘志溢れる強気なプレーが光るダービッツ。
小柄な体格は同じでも、線が細く気も弱い柄本つくし。
しかし、チームのために体を張り、ピッチを縦横無尽に走り続ける姿は、どうしても重なって見えるのです。
そして、初心者ながら愚直なまでのつくしの頑張りに、いつの間にかチームメイトが引っ張られていきました。
まさに、その様は“水を運ぶ人”といえるでしょう。

聖蹟高校サッカー部は、“怪物”水樹や“天才”風間、“中盤のマエストロ”君下など華麗なプレーで観客を惹きつけるタレントぞろいです。
一方で、チームの潤滑油としての役目を担う「水を運ぶ人」は決して主役にはなりえません。
運ばれてきた水を使うのが主役・マイスターの仕事です。
しかし、水を運び、プレーのお膳立てをする者がいなければ主役は輝けません。
一瞬の煌めきで、大きな仕事を成し遂げるのがチームの主役でしょう。
かたや、「水を運ぶ人」は主役のような輝きはないものの、タイムアップのその瞬間までチームのために身を粉にします。
それは、まさしく柄本つくしのことではないでしょうか。

つくしはいつも、こう思いながらプレーします。

「僕は1番下手だから、走ることしかできない。僕には何もなかった…友達も仲間も夢中になれる何かも…。でも、今はその全部がここにある!」

仲間への感謝、そして仲間からの信頼が今日も柄本つくしの背中を後押します。

心優しき先輩 笠原淳平

笠原淳平は水樹らと同じ代の3年生で、常に冷静なメンタルと正確なシュートが持ち味です。

この笠原。
地味ながら、作中で私が最も好きな人物です。
穏やかな物腰に優しげな相貌、そして作中随一の人格者こそ、笠原淳平といえるでしょう。

そんな笠原の人柄がクローズアップされるのは、インターハイを直前に控えた場面でした。
当然ベンチ入りメンバーに入ると思われた笠原が、なんと落選したのです。
代わりに選ばれたのが、あろうことか柄本つくしでした。

笠原はインターハイを最後に聖蹟を辞め、地元に戻ることを決めていました。
表向きは「上には上がいることを知り限界を感じた」という理由でしたが、本当は自分を育ててくれた祖母を介護するためでした。
それだけに、インターハイに懸ける思いは人一倍だったのです。
しかも、誰よりもひたむきに努力してきたのに…。

メンバーに漏れたうえ、代わりに選ばれたのがチーム1下手なつくしと来れば、普通は荒れるでしょう。
しかし、笠原は落選直後つくしに「後でグラウンドに来いよ」と言葉を残して去りました。
なんと笠原はつくしのシュート練習のために、球出しを買って出たのです。
ひとり、落選の悔し涙を流した後に…。

つくしは笠原に尋ねます。

「どうして僕なんかのために…」

笠原はいつもの優しい表情で言いました。

「正直 死ぬほど悔しいさ。でも、いいんだ。柄本…お前だったから」

号泣するつくしに、なおも心から語りかけます。

「俺は本当にお前で良かったと思ってるよ。入部して1ヶ月、こんなに努力できたお前を俺は本当に尊敬してる。胸を張れ柄本!お前は選ばれなかった者の代表なんだ」

メンバー発表の前日、つくしは笠原のために球出しをしました。
それは心から笠原を尊敬していたからです。
そんな真心が伝わればこそ、笠原は球出しのお返しをしたのではないでしょうか。

とはいえ、落選という現実を前に笠原はどれほどショックを受けたことでしょう。
にもかかわらず、すぐに切り替え後輩のための援護射撃を買って出ます。
まだ高校生とは思えぬ笠原淳平の人格者ぶり。

「お前は選ばれなかった者の代表なんだ」という言葉に、私は不覚にも涙を禁じ得ませんでした。

そして、とうとう笠原がチームを去る日がやって来ます。
インターハイの東京都予選決勝で、桜木高校に敗れたからです。

その日の夜、3年だけで学生寮に集まって打ち上げを行いました。
翌早朝、仲間たちが眠りにつく中、笠原はひとり寮を出ます。
ところが、外には水樹が待っていました。
「駅まで送るよ」と。

ホームに立つ笠原は水樹の質問に答えます。
それは、つくしが最後にシュートを外した場面、お前だったら決めていたか?というものでした。

「100%決めていた。自信がある!俺たちはそれだけの練習をしただろ?」

笠原は言葉を続けます。

「でも…あの土壇場であそこまで走りこむことはできなかった。あれは柄本だから来たチャンスだった」

そして最後に、実に笠原らしい言葉を残します。

「俺より柄本と風間を気づかってやってくれ。あいつらは聖蹟の宝だよ」

列車に揺られる笠原は、聖蹟での思い出が甦ります。
そこには雨の日も風の日も共に全国を目指し、切磋琢磨した水樹の姿がありました。
思わず膝を付き、涙に暮れる笠原。

一方で、去りゆく笠原を見送った水樹は誓います。

「お前で最後だ。約束するよ笠原!もう誰にも下は向かせない」




まとめ

本作品は各話ごとに必ず見所があり、我々読者の心を震わせます。
その理由の一つに、ライバルの人となりや背景を丹念に掘り下げていくからです。
そして、なによりも高校時代という多感でみずみずしい感性や、彼らが紡ぎ出す臨場感を巧みに表現しています。

DAYS。
“日々全力で、日々諦めず、日々前進する。精一杯努力する日々は裏切らない”。
そんなことを思わせるスポーツ漫画を超えた素晴らしき青春群像劇、それが「DAYS」です。


DAYS(1) (週刊少年マガジンコミックス)

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