固い絆で結ばれた戦士達「黒い三連星」~機動戦士ガンダムの名脇役~

マンガ・アニメ




昭和50年代半ばに放送された機動戦士ガンダム。
この名作には、アムロやシャアをはじめとする腕利きのパイロットが登場する。

中でも、私が最も魅了されたのが、ドムを操りホワイトベースに肉薄した「黒い三連星」の男達である。
ガイア、オルテガ、マッシュの3人は兵隊ヤクザとも揶揄されるとおり、いかつい雰囲気でガサツな言動が目立っている。

だが、誰よりも固い絆で結ばれた“友”だった。

黒い三連星の思い出

機動戦士ガンダムの放送時、私はまだ小学生だった。
周りの友人もガンプラにはまるなど、ファンが多かったと記憶する。
男子にはランバ・ラルの人気が高く、私の一押し「黒い三連星」はそこそこの評判だった。

たまに女子にもガンダム好きがいたのだが、そのほとんどはシャアのファンであり、ストーリーそっちのけで「シャアかっこいい~」と黄色い声を上げていた。
そんな女子どもに苦り切っていた私は、「おしっこシャー(シャア)」と返り討ちにしていく。
アホ丸出しの小学生であったが、今でも一片の悔いがないことを鑑みても、全く成長のない自分に苦笑いが止まらない。

そんな女子たちに比べ、ランバ・ラルを押す男子はさすがだと感じた。
誇り高き軍人にして、部下や内縁の妻にも慕われるランバ・ラルは、作中でも有数の好漢として描かれる。

だが、ラルには一目置くものの、やはり粗野で野武士の雰囲気漂う「黒い三連星」の魅力には敵わない。
正確を期すならば、オルテガとマッシュには、さほど興味を惹かれない。
やはり、リーダーのガイアの豪傑ぶりが最高だ。

しかも、ただ歴戦の兵というだけでなく、誰よりも仲間想いなのである。
第25話「オデッサの激戦」で、アムロ操るガンダムとのギリギリの攻防で敗れ、死の寸前のことだった。
一足先に黄泉に旅立ったマッシュとオルテガへの想いがあふれ出す。

「マッシュ、オルテガ…すまん!」

通常、死を目前にすれば己のことで精いっぱいになり、恐れおののきながら逝くのが定番である。
だが、ガイアは己の死など一顧だにせず、仲間の仇打ちを果たせなかったことを詫びるのだ。
ガイアという真の“武士(もののふ)”の漢気に、私は子ども心に深い感銘を受けるのだった。

そんな義理人情に生きるガイアだが、極上のエンターテイナーとしても名を馳せる。
自慢のドムの射撃をヒョイとかわしたガンダムに、ガイアはこう言った。

「うっ!よけた…俺の狙いを!」

まったく…何様のつもりだろう…。
しかも、このガイア。
何のてらいもなく、心の底から自惚れた台詞を宣わっているのである。
射撃の名手・次元大介でも、こんな不遜な発言はしたことはなかった(はず…)。

さらに、ガイアの「びっくりしたな!もう!」特集は終わらない。
オルテガとマッシュの3人で、ガンダムに伝家の宝刀・ジェットストリームアタックを試みた。
すると、先陣をきるガイアのドムを踏み台にしたガンダムに、「黒い三連星」のリーダーは驚きを隠せない。

「ああっ!?俺を踏み台にしたぁ~!?」

あの髭面のコワモテが、この緊迫の場面でコントティストを放り込んできた。
しかも、目をまん丸にする顔芸まで仕込む念の入れようだ。

しばらく、学校中の男子が銀玉鉄砲片手に「オ、オレの狙いをかわしやがった!」「オ、オレを踏み台にしやがった!?」と、今でいう“バルス祭り”さながらに“ガイア祭り”で賑わったことは言うまでもない。

先に、オルテガとマッシュにはあまり興味がないと言ったが、それは個人として見た場合であり、やはり「黒い三連星」にこの両者は欠かせない。
その証拠に、ジェットストリームアタックをかける場面は、私の中で機動戦士ガンダム史上最も心躍った。

これまでのザクやグフに比べて、紫に黒のカラーリングのドムは重厚感に満ちあふれ、高速のホバー移動で迫り来る様はタイトルにもあるように、まさしく「迫撃!トリプルドム」といった趣である。
加えて、頭部のモノアイがくるくると動き、不気味さを醸し出す。
そのドムと一心同体となり、ガイア、オルテガ、マッシュの3人が当意即妙の動きで、ガンダムに襲いかかるのだ。

改めて見ても、ジェットストリームアタックの場面は、本当に秀逸な描写となっている。
夜の帳が下りる中、そのシーンだけ何とも言えぬ色合いに背景が反転し、刹那のときをあえてスローモーションに落とし込む。
1度目のアタックで隠していた切り札の、拡散ビームの目くらましに翻弄されるも、息の合った百戦錬磨のコンビネーションをかいくぐり、マッシュを斬って捨てるアムロの神速の反応。

さらに、それらを引き立てる臨場感あふれる台詞まわしと音楽も素晴らしい。
テレビに釘付けの私は演出の凄さに圧倒され、見せ方の巧みさに感嘆する。

マチルダの非業の死も相まって、このシーンは私の心に永遠に刻まれた。




岡田斗司夫の名解説

私は少し前、この名シーンを解説する“オタキング”こと岡田斗司夫の動画を視聴した。

ここ最近まで私は彼を、ふくよかな典型的オタクとしか認識していなかった。
だが、彼のYouTubeを見るうちに、認識がコペルニクス的転回を迎える。
とにかく視座が高い彼は、アニメ制作にも携わっていたこともあり、細かい描写を見逃さない。

数々の名作動画を配信しているが、特にガンダムシリーズの解説は感心させられる。
その中でも「黒い三連星」を取り上げる岡田の解説は、私の知らない背景が解き明かされていき、さらなる深い感慨を覚えていく。

天下分け目の「オデッサ作戦」が始まっているというのに、ガイアとオルテガはマッシュへの弔いを優先する。
ジオン軍の中でも“ローグワン(はぐれ者)”ということもあり、誰もマッシュを悼む者はいない。
なればこそ、ガイアとオルテガは一層、マッシュへの弔意を示すのだ。

その埋葬方法は墓標もなく、地面に突き刺した銃にヘルメットをのせるという、名もなき兵士の墓といった風情であった。
だが、ガイアとオルテガのふたりだけが、そこにマッシュがとこしえの眠りつくことを知っていればよいのである。

ガイアはドムに乗りこみ、ジャイアント・バズで弔砲を放つと、今は亡きマッシュに語りかける。

「マッシュの魂よ…宇宙に飛んで、永遠に喜びの中に漂いたまえ」

ガイアの深い想いが、こちらまで伝わってくる。

だが、ここで疑問に思う方もいるかもしれない。
なぜ、生まれ故郷のジオンの地に帰還するのでなく、宇宙に漂えと祈ったのか…。

実は、彼ら3人には家族もなければ恋人もなく、あるのは「黒い三連星」の絆だけだった。
信仰を捧げる宗教もない彼らだからこそ、神父に代わってリーダーのガイアが弔辞を読んだのである。

岡田斗司夫の解説を聞くことにより、「黒い三連星」の生き方と背景を知ることができ、さらなる余韻を残すに至った。

弔いの儀式を終えて間もなく、ガイアとオルテガも…。
友の待つ宇宙へと旅立った。


機動戦士ガンダム THE ORIGIN(1) (黒い三連星も見参!)



最後に、岡田斗司夫チャンネルで扱った放送回のURLを貼っておく。

ガンダム完全講座#73「オデッサの激戦」その1

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