スーパードクターKの遺志を継ぐ者「K2」~医は仁術なり~

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文字通り人生の全てを賭して、病に苦しむ人々を救う宿命に殉じてきたKの一族。
そんな彼らは驚異の医学知識と神のメス捌きを駆使する姿から、「スーパードクターK」と呼ばれていた。

硬質な医療もののストーリー仕立ての中にユーモラスな描写も散りばめる、医療漫画の最高峰「K2」を紹介する。

「K2」とは

K一族の継承者・西城カズヤこそ、人呼んでスーパードクターKその人である。
最期まで医師として患者と向き合い、30代半ばの若さで逝去した。

その後継者として、先代と遜色ない技量を携え世に現れた一人の男。
彼の名を神代一人という。
そんな「Kの遺志を継ぐ者」がカズヤの忘れ形見ともいうべき一也を医師として育てあげ、共に多くの人々を救っていく物語である。

彼らはカズヤと瓜二つの容姿も手伝って、スーパードクターKゆかりの人々にある種の感慨をもって迎え入れられた。
当時、週刊少年マガジンの愛読者にして、スーパードクターKの活躍に胸躍らせた私も例外ではない。
時を経て、スーパードクターKと会えたことに喜びと懐かしさを禁じ得ない。

私には忘れられない言葉がある。
それは、私の敬愛する人物が語った箴言だ。

「人生には様々な出会いがある。その中でも最も素晴らしい出会いが再会である」

真理だと思う。
我ながら、ここまで感無量の思いが込み上げるとは意外であった。




ジレンマ

「K2」の作中で、特に心に残ったのが「ジレンマ」という話である。
大学病院に課せられた臨床と教育という、ともすれば相反する使命。
これはその難題を、己の命を懸けて全うした医師の物語である。

ストーリー

福沢は赤光大学付属病院の勤務医で、日本一と名高い消化器外科医・新堀照光に師事している。
新堀のメス捌きは、まるでオーケストラを指揮するマエストロのようだった。

その高名は世に知れ渡り、日本中から彼のもとに患者が押し掛けた。
だが、皮肉にも名医であることが、新堀を悩ませた。
大学病院は患者に最高の医療を提供しつつ、経験のない医師を一人前に育てなければならない。
このジレンマを誰よりも痛感していたのが、他ならぬ新堀自身だったのである。
若手に経験を積ませたくても、高度情報社会の進展により患者が知識を持ち、より良い治療と熟練の医師を求めてくる。
いきおい患者は自分を頼りにし、つい最近も福沢のオペの機会を奪ってしまう。

ある日、新堀は偶然街中で神代一人ことドクターKと出会う。
Kは一目見て、新堀の体調の異変を見抜いた。
実は、新堀は悪性のスキルス胃がんに蝕まれていたのである。
その慧眼を目の当たりし、新堀は教授としての責務を果たすため、ある依頼を託すのであった。

教授として

福沢もまた悩んでいた。
担当医でありながら、患者の希望によりオペができない現実に…。

だが、新堀は福沢の将来性を高く買っていた。
助手としてオペに立ち会う福沢は判断力にも優れ、執刀医の意図を汲み取る能力にも長けていた。
なので、敢えて福沢に自らのオペを任せることにした。

がんは既にかなり進行しており、手術は困難を極めることが予想された。
当然、福沢は躊躇する。
そんな愛弟子に新堀は言い放つ。

「実績のないお前だからやるのだよ…福沢!私は大学病院の矛盾を考え続けてきた。臨床と教育という同時に達成せねばならない矛盾を…。
恥ずべきことだが、私の体はガン細胞に冒された。だが、教授としてこれ以上ない教材を手に入れた。これは私の最後の授業だと思って欲しい」

そこで、Kに助手として立ち会うことを依頼したのである。

オペが始まると、病巣やリンパ節を淀みなく切除していく福沢。
そんな俊英をKは巧みにサポートする。
とても初顔合わせとは思えぬ息の合ったコンビに、オペを見守る医師たちは感嘆の表情を浮かべている。
難しい手術にも臆することなく完璧にこなした福沢に、外科の助教授も惜しみない称賛を送った。

「間違いなく、福沢は本大学の次代のエースたる存在だ」

そんな福沢に、患者として全幅の信頼を寄せる新堀。
ところが、手術から15日後、肺炎球菌肺炎により帰らぬ人となる。
あと数日で退院というところまできていたのに…。

自らのオペに原因があったと落ち込む福沢に、Kはこう言った。

「手術は成功だった。術後、新堀教授自らVTRでオペを確認し、お墨付きを与えていた。そして、“福沢め…いい腕になったものだ!”と満足そうに言っていた」

それでも、福沢の嘆きは止まらない。

「手術が成功しても…治療がいくら正しくたって…患者が死んでしまったら何にもならないじゃないですか!!」

Kは福沢を真っ直ぐ見つめ、語りかける。

「そんな理不尽とも思えることさえ…医者は受け止めなくてはならない。最善の努力をし、正しい治療法を選択したとしても…アクシデントで死亡してしまう患者もいる。自分の中でベストを尽くした思えば、医者にはそれに耐えうる強い心が必要なのだと…新堀教授は身をもって教えてくれたのです」

そして、Kは言葉を継ぐ。

「教授が意識を失う直前、こんな一言を残したそうです。“ふ…福沢先生…”と。
あなたは新堀教授にとって、信頼にたる医者だったのです!」

去り行くKは、今は亡き新堀教授に思いを馳せた。

「あなたは自分のことを教授失格だと言ったが…とんでもない。たしかに伝わったはずですよ、新堀教授!見事な…最期まで見事な授業でした」




所感

たとえ地位が高くても、医者として技量に優れていても、必ずしも人間的に褒められた人物ばかりではない。
しかし、新堀照光は不惜身命の志をもってして、医療と未来ある若者にその身を捧げた尊敬すべき人物だ。

それはまた「K」の名を継承した男も同様である。
ラストシーン、肩を落とす福沢に医師としての心構えを説く。
最善を尽くしても、上手くいくとは限らないのが世の常だと。
所詮、医者ができることは最善を尽くすことだけで、どんな現実も受け入れ、乗り越えていかねばならないのだと。

「事をするは人の業。事を為すは天の業」

諸葛孔明が吐露したこの言葉こそ、この世の真理を穿つ箴言と呼べるだろう。

そして、日本一の外科医が腕前を認めた事実を、さりげなく愛弟子に伝えたのである。
ドクターKを継承する者たちは、ことあるごとに口にする。

「病だけでなく、心まで救う医療を目指すのだ」と。

まさにKはこの言葉を体現し、福沢の心を救ってみせたのだ。

もちろん、新堀の深い想いがあればこそである。
死の直前、主治医として認められ“先生”と呼んでもらえたことは、福沢にとって生涯胸に刻まれたことだろう。

そんな恩師の真意を知り、福沢は涙が止まらない。
Kが新堀に語りかけたように、必ずや弟子に伝わったはずだ。

今ここに“真の医師”新堀照光の遺志を継ぐ者が誕生した。


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まとめ

医は仁術なりを体現するスーパードクターKの崇高な精神に、何度感銘を受けたことか。
病だけでなく患者の心まで救うという医療の原点を鮮やかに描く、本格ハードボイルド医学伝説「K2」。

しかし、それを体現する者はスーパードクターKだけにとどまらない。
だからこそ、私は本作に深い感銘を受けるのだろう。

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