今回紹介するのは、4年3組のある児童が母への想いを募らせる話である。
まだ小学4年生の身空で、最愛の母と離れて暮らすことを余儀なくされる優子。
だが、そんな少女のためにガースケは奮闘する。
そして、子ども達からガースケへのサプライズ。
今回の『日本一のお弁当』は名作揃いの「みにくいアヒルの子」の中でも、私が最も好きな作品だ。
ストーリー
写生大会を翌日に控え、優子は浮かない表情を浮かべている。
母親が出て行った優子には、お弁当を用意できなかったのだ。
事情を聞いたガースケは、 “日本一の弁当”を作ってやると約束する。
それを聞き、優子はとびっきりの笑顔を浮かべていた。
慣れない料理に夜を徹して向かい合うガースケ。
みんなには内緒で、ようやく出来上がった弁当を優子に渡す。
お昼になり、車座になって弁当を広げる優子と友達。
「わあ~きれい」「おいしそう~」
女の子達の歓声がこだまする。
そして、優子も期待に胸を膨らませながら、弁当箱を開けた。
ところが、中にあったのは白飯に梅干しだけの日の丸弁当だった!
その瞬間、微妙な空気が流れ、優子は恥ずかしさのあまり居たたまれなくなる。
優子は勢い、ガースケのもとに行きこう言った。
「最低…最低…!先生のウソつき!!」
ガースケに弁当を投げつけ、泣きながら去って行った。
切ない想い
ガースケに、「お母さんがいなくても、全然大丈夫だから」と強がる優子。
だが、本心は寂しくてたまらない。
そんな中、優子は写生大会に弁当を用意できないと、休みたい旨申し出る。
だからこそ、ガースケは徹夜して弁当を用意したのだ。
本当は“タコさんウインナー”や“リンゴのうさぎ”を用意したかったが、ガースケには上手く作れない。
こうしたこともあり、一見するとただの日の丸弁当だが、ごはんの下に卵焼きやウインナーを隠しているサプライズ弁当を作った。
だが、優子は全く箸をつけなかったため、知る由も無かったのだ。
私にも覚えがあるが、子どもにとって弁当は大人が考える以上に重要事項なのである。
ましてや、女の子は友達への見栄もあり、お弁当の見た目の良さは欠かせない。
我々視聴者はガースケの苦労を知るだけに、優子を叱りたくなる人もいるかもしれないが、私には母の不在も手伝って彼女を責める気持ちにはなれない。
只々、傷心の優子に同情を禁じ得ない。
だが、ガースケも深く傷つき、反省した。
「考えてみりゃ…日本一の弁当なんて作れるわけねぇんだ…これは謝って済む問題じゃない」
ガースケは理解していた。
たとえどんな豪華な弁当も、母親が作った弁当に勝るものなど無いことを。
優子の絵
良くないことは重なるものである。
写生大会で、優子の絵が友達に変だと言われてしまう。
おまけに、その絵を見た先生達が「心が病んでいる」と口にしたのを、偶然優子は聞いてしまったのだ。
たしかに、太陽は青、空は黄色、海の色はピンク、雲はオレンジ…。
一見するだけで、普通とはかけ離れた色彩感覚である。
その晩、優子はガースケに電話し、川の畔で落ち合った。
みんなが納得するまともな絵に描き直したので、差し替えて欲しいという。
ガースケが持参した最初の絵を奪い取る優子。
ガースケは尋ねた。
「なんで描き直したんだ?写生大会、真面目にやらなかったのか」
「そうじゃないけど…」
口ごもる優子に、ガースケは絵を返すように迫る。
すると、優子は叫びながら絵を川に投げ込んだ。
「こんなの、みんなに見られたくない!みんなに見られたら恥ずかしい…」
「自分の描いた絵のどこが恥ずかしいってんだよ」
反論するガースケに、優子は今にも泣きそうな顔で言った。
「私の描いた絵は変なんです。私は病気だって…歪んでるって!心の病だって!!先生だって、そう思ったでしょう?」
走り去る優子に、ガースケはきっぱりとこう言った。
「ふざけだこと言ってんじぇねよ!この平泉玩助を舐めんなよ」
ガースケはなんと、いきなり川に飛び込んだ!
絵を拾うためである。
「どこがおかしいっていうんだよ!どこが変だっていうんだよ!木は緑?海は青に太陽は赤に塗らねぇと病気だと?冗談じゃねぇぞ!先生はこれっぽちも、そんなこと思っちゃいねぇぞ!」
心配する優子に、ずぶ濡れのガースケは叫んだ。
「ちゃんと描いたんだろ!?一生懸命描いたんだろ!?ちゃんと描いたのに失敗だとか言われて、出せなかったんだろ?ちょっと人と違う絵を描いたからってなぁ、歪んでるって決めつける奴の方が歪んでるんだ!」
ガースケは絵を広げながら、なおも語りかける。
「いいか!これは優子の個性だよ!お前はよ、人の目気にして恥ずかしがったり…先生に弁当ぶつけて怒ったり…めちゃくちゃ元気にやってるじゃねぇか。お前の心はちゃんと動いてるじゃねぇか!
病気なんかじゃねぇぞ…優子は病気なんかじゃねぇ!いいか、世界中敵に回しても、先生は…先生はこの絵に100点満点つけてやる!」
ガースケを真っ直ぐ見つめる優子の瞳から、大粒の涙が零れ落ちていた。
このシーンは、いやこのシーンもまた、作中屈指の名場面である。
絵は子どもの心を映す鏡だと言う。
ところが、ガースケはそんな常識など何のその、優子の心象風景を描いた力作を全部ひっくるめて肯定したのである。
そのことが、どれだけ母の離婚で傷ついた優子の救いになったことか…。
実際、海の色は母が着ていたセーターの色で、空の色は母が好きな色。
そして、太陽はお母さんのことを思い出して色を塗ったのだ。
お母さんへの想いが凝縮した、一生懸命描いた絵だったのである。
日本一のお弁当
ガースケは弁当の一件を謝った。
そして、優子にとっての“日本一の弁当”について訊く。
優子は声を絞り出す。
「みんなと同じように…私も、お母さんの作ったお弁当が食べたい!」
ガースケは号泣する優子をやさしく抱きしめる。
「食わせてやるよ…今度こそ、約束…絶対守るから」
しばらくし、今度は授業参観が行われる。
クラスメイトはその話題で盛り上がるが、優子の表情はまたもや暗くなる。
そして、ついに友達に母のことを打ち明けた。
そんな中、優子も知らない母の居所を、ガースケは必死に捜し出す。
そして、ガースケは母親にこれまでの経緯を話し、授業参観のことを伝える。
ところが、今はまだ会えないと断られてしまう。
「もし、娘と会ったら…娘をギュッと抱きしめ、自分の所に連れて行ってしまうかもしれない。今は必死に働いて経済的に目途が立ってから、迎えに行く」
涙を落とす母親に、ガースケはそれ以上何も言えなかった。
しかし、翌朝、不屈の男ガースケは再度アタックを試みる。
持参した授業参観のお知らせを渡そうとした。
「夕べお話したように、今は無理でもいつか…そのうち必ず…」
頑なに拒否する母親にガースケは言う。
「いつかそのうちじゃなくて、優子は今お母さんに会いたいんです」
仕事があるからと立ち去ろうとする母親に、ガースケは語りかける。
「絵を描いたんです。優子の描いた絵…海はピンク、空は黄色に塗られてました。ピンクはお母さんが着ていたセーターの色で、空の黄色はお母さんが好きな色だって。それから、太陽はお母さんを想って描いたって言ってました。色は青です」
そして、ガースケは思いの丈をぶつけた。
「優子が想い描いた太陽は青かったんです!寒いですよ…太陽が青くちゃ…あったまらないです…」
だが、母親は苦悶の表情を浮かべ、職場へ逃げ込んだ。
「くっそ!優子の今を大切にしないで、近い将来もクソもあるもんか!」
バイクで走り出すガースケは、後ろに母親がいることに気がついた。
すると、黙って授業参観のお知らせを受け取るではないか!
一目散に学校に戻ると、早速、優子に伝えるガースケ。
優子の嬉しそうな表情といったら…。
優子の笑顔を守るため、奮闘するガースケに目頭が熱くなる。
授業参観当日、教室の後ろから大勢の父母が我が子を見つめている。
だが、優子の母親は見当たらない。
放課後、悲し気に俯く優子。
「おっかしいな~優子の母ちゃん来なかったなぁ~しょうがねぇなぁ、仕事休めなかったのかもしれねぇな」
場違いなまでに明るく振る舞うガースケは、窓の外を眺めるとこう言った。
「優子…お前の母ちゃん大遅刻。授業終わってから来ちゃったよん」
窓に駆け寄る優子は母の姿を確認し、外に向かって飛び出した。
「先生って無神経。優子、大変な時なのに…」
「分かってないよね」
優子を見守っていた友達が、口々にガースケを非難した。
すると、夢想だにしない言葉がガースケの口から放たれた。
「先生もいねぇんだ。母ちゃんも父ちゃんも誰もいねぇんだ。優子の涙、先生…少しは分かってるつもりだぜ」
初めて知る担任の秘密に、彼女達は驚きを隠せない。
「優子の家は離婚しちまった。母ちゃんに会えたからって元に戻ることは難しい。いいか、一番辛いのは独りだってことよ。先生は白鳥のいる湖に捨てられて、親の顔知らないで育った。家族がいなくてずっと一人だったけど、一緒に遊ぶ友達がたくさんいた。そして、いつもそばにいてくれた。分かるよな?」
ガースケの言葉に、優子の友達は頷いた。
その頃、優子は母親と久々の再会を果たしていた。
涙ぐむ娘に渡す、とっておきのプレゼント。
それは優子が夢にまで見た、お母さんが作った“日本一のお弁当”だった。
「あれもこれも入れようって思ったら、遅れちゃって…ごめんね」
「お母さん…!」
母と娘は、いつまでも固く抱き合った。
世の中には、定命の者にはどうにもならぬことがある。
その不条理にあって支えてくれるもの、それが友達だとガースケは言うのである。
平泉玩助のあったかさの源泉を見る思いがした。
世界一のお弁当
帰り道、友達からガースケの境遇を聞く優子。
ある日、ガースケが教室に戻ると、子ども達が集まっている。
訝しがるガースケに、優子が歩み寄る。
「本当は先生のお母さん…捜すことが出来たらいいんだけど…そういうのよく分からないから、いろいろ考えて…みんなで作ったの!」
子ども達がどくと、そこには…。
“一番星のポーズ”を取るガースケの似顔絵を描いた、大きなキャラ弁があったのだ!
「先生の今日の給食は…“日本一のお弁当”よ!」
感極まり、しばし言葉に詰まるガースケ。
涙を堪え、いつものガースケ節で切り返す。
「なんだよお前、そんなでけぇの食えるかバカ…そんなの胸がいっぱいで…いや腹がいっぱいでよ」
子ども達に促されるガースケ。
「まあまあ、そんなこと言わないで食べてくださいよ」
「作るの大変だったんだから」
「見かけは悪いけどうまいぜ」
「おれ味見しといた」
「ぼくは分量を量っときました」
「わたし卵割ったんだ」
「ちょっと殻が入っちゃったけどね」
「わたしが買い出ししたんだよ」
「わたしも」
子ども達の真心に、ガースケは思わず涙ぐむ。
「団体で感動させるんじゃねぇよ」
子ども達に囲まれて食べる“手作りのお弁当”。
それはガースケにとって日本一ならぬ“世界一のお弁当”だったに違いない。
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