本作は2019年11月に上映されたアニメ映画です。
今年の11月に第2弾『すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』が公開され、話題を呼びました。
元々は、サンエックス株式会社の人気キャラクターなのですが、おじさんの私には全く馴染みがありません。
“リラックマ”や“たれぱんだ”を世に送り出した会社だと聞き、ようやく合点がいった次第です。
「どおりで、癒し系でほのぼのしているなぁ~」と。
そんな私が2年の沈黙を破り、新作ではなく第1弾を鑑賞しました。
上映時に映画館で観ようと思ったんですが、いかにも面妖かつ素浪人風な私が子ども向けアニメに行くと、営業妨害に抵触する可能性があったので自重いたしました。
というわけで、作品について認めていきます。
すみっコたち
主なキャラクター紹介です。
・しろくま
とても寒がりで人見知り。暖かい場所を求めて北から逃げて来ました。
・ねこ
恥ずかしがり屋で気が弱い。仲間が来ると隅っこを譲ってしまいます。
・とんかつ
とんかつの一番端の部分。肉1%脂肪99%と脂っこいので残されちゃいました。
・えびふらいのしっぽ
とんかつと仲良し。同じ残りものとして気が合う。
・ぺんぎん
読書と音楽好き。自分が本当にペンギンなのか自信が無くて自分探し中。
・とかげ
本当は恐竜の生き残り。正体がばれると捕まってしまうので内緒にしてます。
・にせつむり
実はナメクジだがカタツムリに憧れ殻を被ってます。偽物仲間のとかげと仲良し。
ストーリー
この世界のどこかで、「ここがおちつくんです」と隅っこでひっそりと暮らす“すみっコたち”。
そして、ほのぼのとした時間とやさしさに包まれた空間。
それが『すみっコぐらし』の世界観であります。
ある日、“すみっコたち”は、お気に入りの店「喫茶すみっコ」に食事に行きました。
従業員のおばけは綺麗好きなので、客の“すみっコたち”にもかまわず、地下室までピカピカに掃除中。
突然、地下室から物騒な物音がしました。
恐る恐る、地下室の様子を見に行く“すみっコたち”。
『せかいのおはなし』という題名のとびだす絵本を開くと、“すみっコたち”は絵本の中に吸い込まれてしまったのです。
気が付くと、“すみっコたち”は『桃太郎』の物語にいました。
そこには、一足先に到着したおばけもいます。
不思議なことに、とんかつがおじいさん、しろくまがおばあさん、ねこが桃太郎役になっているではありませんか。
お供の犬・猿・雉が集まってきますが、なぜか、ひよこもいました。
“すみっコたち”が名前や家などを尋ねますが、ひよこは答えられません。
でも、迷子になったのか、ひよこが独りぼっちなのは分かりました。
そして、桃太郎役のねこ以外の“すみっコたち”は様々な物語に飛ばされ、その世界の登場人物に変身していきます。
『マッチ売りの少女』では、しろくまが少女役に。
『赤ずきん』では、とんかつが赤ずきん役に。
『人魚姫』では、とかげが人魚で、にせつむりが王子役。
『アラビアンナイト』では、ぺんぎんがシンドバッドというように。
ちなみに、桃太郎役のねこは鬼ヶ島に行ったのですが、鬼にきびだんごをあげて仲良くなりました…。
それぞれの物語から抜け出した“すみっコたち”は、再び落ち合うことができました。
絵本の中でも、仲良く肩を寄せ合い隅っこに座っています。
その姿を見ていたひよこに「ここ、ここ」と合図をし、みんな一緒に座りました。
夜が更けて、眠りにつく“すみっコたち”。
夜中に目を覚ましたぺんぎんは、ひよこがいないことに気付きます。
ひよこは、独り夜空を眺めていました。
ぺんぎんは隣に腰掛け語りかけるのです。
「大丈夫。“すみっコたち”が絶対居場所を見つけてくれるよ」
ぺんぎんは、ひよこの肩に手を置きながら慰めるのでした。
その晩、おばけが絵本の世界の仕掛けを押すと、空に“すみっコ”の世界へと続く光の輪が現れます。
おばけはそこに吸い込まれ、無事帰還できました。
そして、ひよこの正体がついに判明します。
誰かが昔、『とびだす絵本』の白紙のページに落書きをしました。
それが、ひよこだったのです。
存在を忘れられ、長い間放置された絵本の中のひよこは、ずっと一人ぼっちでした。
寂しさに耐えられず、ひよこは仲間を探しに白紙のページから飛び出しました。
そんなひよこに、“すみっコたち”は言うのです。
「一緒に“すみっコ”に来る?」
初めてできた仲間に、ひよこは涙を浮かべて喜びます。
その時、空から眩い光が降り注ぎ、あの光の輪が現れました。
ですが、空を飛べるおばけと違い、みんなはそこまで届きません。
なので、絵本の中の色んなパーツを集めて、塔を完成させました。
“すみっコたち”は足取りも軽く、塔を登っていきます。
でも、ひよこは動きません。
塔の上から手招きする“すみっコたち”に、ひよこはかぶりを振ります。
なぜならば、絵本の世界の住人であるひよこは“すみっコたち”の世界には行けないことに気付いたからでした。
すると、塔が傾き始め倒れそうになりました。
咄嗟に突っ張り棒で支えるひよこ。
しかし、非力なひよこには如何ともしがたく、塔は崩れ落ちました。
と思ったその時、鬼やオオカミが駆け付け、倒壊寸前の塔を支えているではありませんか!
「ありがとう」
ひよこは涙を浮かべて感謝します。
“すみっコたち”は次々と光の輪に吸い込まれていきます。
最後に残ったぺんぎんは涙を流しながら、断腸の思いで光の輪に飛び込みました。
絵本の外に出られない落書きのひよこは、いつまでも手を振るのでした。
所感
“すみっコたち”の丸っこくて、ゆるキャラ風な感じが、本作のやさしい世界を表しています。
ひょんなことから、絵本の世界に迷い込んだ“すみっコたち”。
そこで、“すみっコたち”はひよこと出会います。
独りぼっちのひよこに、とりわけシンパシーを感じたのがぺんぎんでした。
迷子になったひよこに、自分探し中の自らの姿を重ね合わせたのです。
様々な物語に迷い込む中、なぜかしろくまは桃太郎のおばあさん、マッチ売りの少女と女役ばかりです。
性別不明の“すみっコたち”ですが、しろくまが雄だとしたら少しシュールですね。
私が作中で一番ユーモラスだと思ったのは、とんかつ&えびふらいのしっぽコンビです。
『赤ずきん』の世界の住人と化したふたりは、オオカミの待つ家に入ります。
しかし、“すみっコマインド”全開のふたりはオオカミが待ち構えるベッドには近づかず、部屋の隅っこでマッタリし始めます。
とうとう日が暮れるまで、くつろいでいました。
ようやくベッドに近づくと、「ガオォォー」オオカミが襲い掛かります。
しかし、ふたりは全く怯みません。
それどころか、「食べてくれるの?」と嬉しそうにオオカミに擦り寄ります。
残りもののふたりは、誰かに食べられることが夢だったんですね。
「どうぞ、どうぞ」と目を輝かせる揚げ物コンビに、思わず後ずさりするオオカミ。
勝手が違うとばかりに逃げ惑うオオカミを、とんかつ&えびふらいのしっぽコンビは追いかけ回します。
オオカミに逃げられ、再び“残りもの”としての人生を歩むふたりの背中は、哀愁が漂っていました。
その時の、とんかつの無表情な佇まいがたまりません。
メンバー全員が再会し、ひよこと一緒に並んで座る光景は微笑ましく、とてもあたたかい気持ちになりました。
いつの間にか、オオカミや動物たちも集まって来ました。
お腹を空かせた“すみっコたち”のために、きびだんごの礼におにぎり持参で鬼が現れます。
“すみっコたち”がおにぎりを頬張る姿を、やさしく見つめる鬼の眼差し。
寓話では悪者の鬼やオオカミも、ここでは仲間として描かれます。
『すみっコぐらし』の世界では敵も味方もなく、みんな等しく仲間なのです。
物語が進み、ひよこの出自が明らかになります。
自分の生まれた世界が白紙だったいう哀しい事実。
だから、どこにも居場所が見つからなかったのです。
そんな孤独なひよこに寄り添う“すみっコたち”。
一人ぼっちの辛さ、寂しさを知る“すみっコたち”は、ひよこの心に寄り添います。
「もう一人じゃない」
初めて、ひよこに仲間が出来た瞬間でした。
“すみっコたち”はネガティブな性格の反面、相手の痛みを理解できる思いやりの心が魅力です。
彼らのそうしたマインドがあればこそ、本作品に胸を打たれるのではないでしょうか。
いよいよ“すみっコたち”が絵本の世界に別れを告げる時が来ました。
必死に塔を支えるひよこの脳裏に、“すみっコたち”との思い出が走馬灯のように甦ります。
辛く哀しいとき、いつも傍らに寄り添い、励ましてくれた仲間たち。
これまでの話はこの瞬間のためにあったのだと、気づかされます。
あのかけがえのない時間があればこそ、ひよこの心情が際立つのです。
しかし、そこには厳しい現実が待ち受けていました。
絵本の世界のひよこは、“すみっコたち”の世界には行けないのです。
何という…言葉もありません。
特に、一番の仲良しぺんぎんとの別れの場面は、多くの人が涙したのではないでしょうか。
でも、“すみっコたち”が去った後、ひよこの隣には鬼やオオカミが立っていました。
“すみっコたち”のおかげで、ひよこはもう一人ぼっちでありません。
そして、この物語の素晴らしいところは、これで終わりではないのです。
元の世界に戻った“すみっコたち”は、『とびだす絵本』を眺めていました。
とりわけ悲しみに暮れるぺんぎんを、仲間みんなで慰めます。
そして、みんなで白紙のページに、ひよこの家や仲間たちを作ったのでした。
絵本の中のひよこも嬉しそうに頷きます。
この映画を観た多くの方は、悲しい結末だと思うかもしれません。
しかし、もし、ひよこが“すみっコたち”と出会わなければ、ずっと一人ぼっちだったことでしょう。
“すみっコたち”との出会いにより、鬼やオオカミという仲間ができ、自分の故郷である白紙のページが盛りだくさんの幸福なページに早変わりしたのです。
“出会いあるところ必ず別離あり”
この厳しい現実に直面しながらも、仲間のために今できる最善を尽くす“すみっコたち”。
人の世に生きる我々も見習うべきだと思うのは、私だけでしょうか。
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