2回戦オーラス、鷲巣が満貫を聴牌し絶対有利の展開となった。
逆にアカギは絶体絶命のピンチを迎える中、勝利を渇望する鷲巣の焦りを誘い、リーチをあがり切る。
それは、まさに敵の考えを思いのままに操る神域の闘牌だった。
ひとえに赤木しげるが局面の全てを見えているからこそ、為しえたことである。
2回戦で6600万を得たアカギは、1回戦との合計で1億1850万をかっぱいだことになる。
当然、鷲巣巌は勝負を続行し、勝負は3半荘目に突入した。
3回戦
前局の流れそのままに、開局早々、アカギは手なりでツモ一通ドラ3の跳満を引きあがる。
一気に形勢はアカギに傾くかと思われた。
だが、続く東2局、配牌は鷲巣の方が良い。
さらに、安目安目のツモながら、鷲巣は一筒単騎で聴牌する。
しかも、その一筒は部下の手の内にあり、リーチをかければいつでも振り込める手筈が整っている。
普通ならば、全く手にならない牌勢だろうに…さすが天性の運を授かる鷲巣巌だ。
ところが、鷲巣はリーチを保留する。
部下にカンの材料があったからである。
三萬を暗槓する部下。
すると、鷲巣が暗刻で持つ二索が新ドラになったではないか!
それを見た鷲巣は頃合いとばかりに、リーチをかける。
いつでも部下からの振り込みが期待できることもあり、鷲巣はツモあがりを目指す。
そして、またもや部下が二筒を暗槓すると、なんと!またもや二索がドラになった!
これでリーチドラ6となり、親の鷲巣がツモあがると倍満の8000オールとなる。
ここまで1100㏄血を抜かれているアカギはさらに800㏄失うことになり、ほぼ致死量に到達してしまう。
鷲巣はツモのたび、おぞましい殺意をぎらつかせるが、赤木しげるは全く動じない。
死の恐怖にも微動だにしない赤木しげるに、鷲巣巌は苛立ちを隠せない。
「なぜ…なぜ震えん?いつもオタオタしてるのは周りの奴らだけではないか!」
だが、“生まれながらの王”鷲巣巌に魔が降臨した。
大挙する魑魅魍魎をも跳ね返す不動心
鷲巣はドラの二索を引き寄せる。
「カン!」
すると、またもや二索がドラになる。
これで、リーチドラ12の数え役満の成立だ。
だが、それ以上にラス牌の二索を引き、さらに槓ドラに乗せることが常軌を逸している。
鷲巣巌は確信する。
完全に、己に魔がとり憑いたことを…。
「あかぎくん…悪いがお前はここで死ぬ…!これは声だ!麻雀を司る魔物からの声…お前を殺せという声…!ククク…カカカ…キキキ!」
鷲巣の異様な姿に怯えるアカギ陣営。
「殺す…!こいつを…こいつを…!」
嶺上開花を狙わんと雀卓の穴に手を入れ、アカギを殺す“あの牌”を探る。
すると、鷲巣の意志に呼応するように、王のもとに一筒が馳せ参じた。
赤木しげるの運命を握る牌を掴んだ瞬間、辺りを瘴気が覆い尽くしていく。
地の底から悪鬼、邪鬼、物の怪…魑魅魍魎の類が沸き上がり、鷲巣の背中から這い出て来る。
もちろん、赤木しげるを殺さんと大挙して押し寄せてきたのである。
目には見えずとも、その場にいる誰もが気配を感じ取っていた。
あまりの禍々しさに、身も心も恐怖に呑み込まれ絡め取られていく…。
鷲巣陣営もアカギ陣営も、全ての者が“一筒”を引くことに疑いを抱かなかった。
だが、ただ一人…。
赤木しげるだけは全く動じない。
何百、何千の襲い来る“定命ならざる者”を跳ね返していく。
揺れぬ心で魔・鬼・邪を凌駕していった。
その姿に、逆に鷲巣巌が動揺する。
「なんだっ…?このガキは…まだ恐れぬのか…まだ震えぬのか?最高の高みに居る神の化身…この鷲巣巌をっ…!」
その瞬間、あの運命の牌が手を離れた。
再び必死に探すも、引いた牌は“一筒の図柄が消え失せた”白だった。
そして、二度と赤木しげるを葬る“あの牌”を引くことは叶わなかった…。
所感
アカギのファインプレー、逆に言えば自身の焦りにより、完全に流れを失った鷲巣。
だが、この巨魁の豪運は尽きることがない。
その様は、かつての“銀河系軍団”レアル・マドリードがゲームの流れなど一切お構いなしに、ジダンらの一撃で勝利を強奪するが如しである。
しかし、一度は地獄の遣い奴たちを従え、アカギを死の淵まで追い込むも、生涯最高の絶頂の瞬間を逃してしまう。
それは、ひとえに赤木しげるの定命の者を超越した精神の力にほかならない。
「ベルセルク」に登場する“蝕”を思わせる禍々しい光景。
そのおぞましい魑魅魍魎を眼前にし、全く動じなかったからこそ赤木しげるは生還した。
人間の恐れや驕り、欲や怠惰…そんな人間の濁りが赤木しげるには存在しないがゆえ、魔物たちはつけ込むことができず、跳ね返されてしまったのだ。
私はいつも感心する。
赤木しげるの穢れなき魂に。
澄み切った湖のような静謐な揺れぬ精神に。
それが、赤木しげるの強さの正体なのではないだろうか。
その後も、鷲巣がツモあがりに固執したことにより、一瞬の間隙を縫って安岡とアカギの連携プレーが炸裂し、鷲巣の勝負手は安手で蹴られてしまう。
アカギが言うように、あの高みに到達しながらツモれなかったときに諦めて、部下に差し込ませるべきだった。
赤木しげるの神域の闘牌に平常心を失い、鼻が鈍った鷲巣。
魔をも従わせる“生まれながらの王”をして畏怖させる、赤木しげるの揺れぬ精神、恐るべしである。
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