ラブコメ漫画の金字塔「めぞん一刻」②  苦労人・五代裕作の優しさ

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ご存知「めぞん一刻」の主人公といえば、五代裕作です。
浪人の身で一刻館に入居したのが運の尽き、四谷さんを筆頭に住人たちのオモチャになる毎日。

人は好いが甲斐性無しの典型で、いつも貧乏くじばかり引いています。
大学を卒業した後も不運と苦労の連続で、これでホントに響子さんと上手くいくのかいな?という有様でした。

ですが、生来の優しさが五代君の良いところ。
今回は、主人公・五代裕作の人間性が伝わるシーンを紹介します。

他人を思いやれる心

五代君は念願だった保育士試験に合格し、いよいよ残すは職探しのみとなります。
すでにアルバイトとはいえ、実際に保育園に勤務した実績もあり、時間の問題のように思われました。
ですが、いざ就職活動を始めると、なかなか上手くいきません。

ある日、五代君は以前バイトしていた「しいの実保育園」の園長の紹介で、保育園の面接に行きます。
そこには、小さな子どもを連れた男性も面接に訪れていました。
その子どもは腕白で、園内をドタドタと駆け回っています。
面接の順番を迎えた父親の代わりに、五代君は子どもの面倒を見ていました。

面接が終わり、近くの喫茶店で響子さんと待ち合わせをする五代君。
すると、偶然にも、先ほどの親子が隣の席に座ります。
どうも、親子の会話から妻に逃げられ、今は二人暮らしの様子です。
しかも、職にもあぶれ、まさに不幸を絵に描いたようではありませんか。

父親は五代君に詫びます。

「すいません、騒がしくしちゃって…。羨ましいな~本当に。見たところ、まだお若いし。素敵な恋人もいらっしゃるみたいだし…。
さっきの面接ね、きみ…採用されると思いますよ。園長先生、君のこと…すごく褒めてましたから…」

店を出た、五代君は複雑です。
正職員に内定したら、響子さんにプロポーズすることをかねてから決めていました。
でも、子どもを抱えた男性のことを思うと…。

帰宅したそのとき、面接の合否連絡の電話が鳴りました。
結果は…なんと、不採用だったのです。
どうやら、ストレートで試験に合格した努力に加え、子どもへの接し方を見た園長は五代君ならばどこでもやっていけると確信したようです。
さらに、あの男性が子どもを抱え、気の毒に映ったことも後押ししたようでした。

さぞや、五代君はがっかりしていると思いきや…。
どこか、安心した表情を浮かべているではありませんか!

「人に同情できる立場じゃないけど…なんかホッとしちゃったな」

私は五代君のこんなところが好きなんですよね。
いつもこんな調子なんで、人より出遅れてしまうこともしょっちゅうです。
優柔不断な性格も手伝って、ときには“お人好しダメ男”などと揶揄されます。
おまけに三流大学の出身で、貧乏もしっぱなし。

でも、五代裕作は天性の人柄で、どこに行っても老若男女問わず好かれます。
これはもしかすると、人間にとって最も価値あることなのではないでしょうか。
特に、人情紙風船に喩えられる現代の世では貴重です。

そんな五代君ですが、あっけなく保育園への正職員登用が決まりました。
「しいの実保育園」の園長がぎっくり腰を発症し、男手が一人だったこともあり、五代君に白羽の矢が立ったのです。
なんとも「めぞん一刻」らしいといえば、らしい結末です。

めでたしめでたし、一件落着となりました。




子どもたちとの別れ

大学は卒業したものの、ようやく内定した企業が倒産し、サクッと就職浪人が決まった五代君。
さすがのハードラックぶりは健在です。

その後、大学時代の知人の紹介により保育園でバイトを始めますが、不景気の煽りを受けクビになってしまいます。
落ち込む五代君は“悪友”坂本の紹介(騙し討ち)で、キャバレーの呼び込みをすることになりました。
相変わらず流されっぱなしなのが、何とも五代君らしいです。

この一件で管理人さんとも一悶着ありながら、徐々に職場に馴染んでいきました。
元々、気立てが良く、保育士として働くことを目指している五代君。
子どもたちからも「ぶちょー、ぶちょー」と懐かれ、見事に福利厚生部長の務めを果たします。
これは店長から福利厚生部長という名目で、その実、単なる子守役を押し付けられたに過ぎません。
でも、ホステスの多くが子どもを抱えており、職場で託児をしてくれる環境は本当に助かります。
真面目な五代君は一銭の得にもならないのに、子どもたちのため、せっせと手作りで積み木の玩具をこしらえます。
そして、五代君は折り紙を使って器用に遊ぶなど、子どもたちとの交流は見ていて微笑ましいものがありました。

そんな福利厚生部長も、キャバレーを去る日がやって来ました。
ついに、保育園への就職が決まったからです。

最後の日、ホステスたちは五代君のもとを訪れます。

「今日で辞めるんだって?子どもたち…寂しがるわね…どうしても辞めなきゃいけないの?」

「おめーら無理言うなよ。就職が決まるまでって約束だったんだからよ…」

彼女たちを諌める店長は、心から五代君の就職を祝福していました。
このやり取りだけで、五代君がいかに職場で好かれていたかが分かります。

五代君はこの日のために、子どもたちへの餞別を用意していました。
「はい、これは由加ちゃんへ」と言いながら、可愛いうさぎの人形を手渡します。
そして、「はい、タカシくんには、パンダさんだよー」
「ぼくもー、わたしもー」と子どもたちが、五代君の周りを取り囲んでいきました。
もちろん、用意した一つひとつの人形は、全て五代君の手作りです。
こんなところにも、彼の真心が伝わります。

閉店後、五代君のお別れ会が開かれました。

「部長さん、今までありがとう」
「いつでも帰ってきてね」
「なに言ってんの。ちゃんと送り出してやんなきゃ…」

ホステスたちは別れを惜しみます。

「ぶちょー、いなくなっちゃうの?」
「行っちゃ、だめー」
「やだーやだー、やだよー」

泣きじゃくる子どもたち。

これは「約束」という回のワンシーンで、メインテーマは五代君が響子さんにプロポーズする、本作でも屈指の傑作編でした。
もちろん、そのシーンは実に感動的で、漫画史に残る名場面といえるでしょう。
ですが、目立たないものの、隠れた名場面といえるのが五代君と子どもたちの別離ではないでしょうか。

なんとも切なくなる私に、作者からとっておきのプレゼントが送られます。
それは五代君と響子さんの結婚式が終わり、スナック「茶々丸」で催された2次会でのことでした。
大学時代の友人や町内会の人々など、五代君ゆかりの人々が大勢やって来ます。

その中に、店長をはじめとするキャバレー時代の仕事仲間の顔もありました。
もちろん、子どもたちもいます。
五代君を見た瞬間、子どもたちは駆け寄ります。

「あっ、ぶちょー。ぶちょー!」

「来てくれたの、ありがとう」

五代君も喜びを隠せません。
両手を広げて、子どもたちを抱き寄せます。

その光景は見ていて心あたたまる、優しい空気に包まれていました。

まとめ

五代君は教育実習に訪れた学校で、八神いぶきという女子高生に惚れられてしまいます。
そんな五代君に対し、八神の父は「娘をたぶらかす不届き者」と憤慨していました。

ですが、五代君の人となりを知るうちに、思わずこぼします。

「この人の心が荒れ果てた時代に…なんという…」

五代君の人柄に、娘を思う強面の父ですら感嘆を禁じ得ませんでした。

読者の多くは「響子さんみたいな素敵な人と結ばれ、五代君は幸せ者だ」と感じているのではないでしょうか。

でも、思うのです。
「本当は五代裕作と添い遂げられる音無響子こそ、幸せ者ではないか」と。


めぞん一刻〔新装版〕15 (本作品収録巻)

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