トーベ・ヤンソン原作「ムーミン」。
実は、私が最も観たいアニメである。
それも平成版の「楽しいムーミン一家」ではなく、岸田今日子がムーミンの吹き替えを行った昭和の時代の方である。
ムーミン谷を舞台に、カバに似たムーミントロールの主人公たちが織り成す不思議な世界観。
多種多様な生き物たちが登場する本作にあって、ひときわ異彩を放つのが“さすらいの旅人”スナフキンだ。
当時の私は再放送を観ていたのだが、まだ年端もいかぬ子どもだったこともあり、彼の口から紡がれる名言・至言を真に理解することはできずにいた。
しかし、スナフキンが醸し出す独特の存在感や、孤独を愛し誰よりも自由を謳歌する魂の息吹を感じていたように思う。
加えて、彼のテーマ曲「おさびし山のうた」の旋律にとても惹かれたことを思い出す。
寂寥感が漂うメロディーの中にも、スナフキンらしい凛とした趣も感じさせる名曲だ。
そして、数十年という時を経て「おさびし山のうた」とともに、改めて噛みしめるスナフキンの箴言。
その味わい深さ、奥深さに驚きを禁じ得ない。
まさに、スナフキンこそ「ムーミン谷が誇る人生の達人」と称されるべきだろう。
- 名言・至言
- 「一度決めたら最後までやり抜く。それが俺の人生さ」
- 「嵐の中にボートを出すばかりが勇気じゃないんだよ」
- 「みんなと同じことをすることは容易いことだ」
- 「本当の勇気とは自分の弱い心に打ち克つことだよ」
- 「人の好みは千差万別だと思います。もし、全部の人間が同じものを食べ、同じものに感動し、同じ本だけしか読まなくなったら、僕はそんな世界はつまらなく味気ないものだと思います」
- 「世の中には自分の思い通りになってくれない相手の方が多いんだよ。おべっかばかり使って友達になろうとする奴も同じくらい多い」
- 聡明な少女・おしゃまさんへの箴言
- 「つまらない意地を張って優しい仲間を失うことは、美しい宝石を失くすことことよりも悲しいことだよ」
- 人の涙や悲しみに思いを寄せる大切さ
- まとめ
名言・至言
飄々とした佇まいの中、包容力に満ちた語り口で含蓄ある言葉を紡ぐスナフキン。
そんな彼の名言を紹介する。
「一度決めたら最後までやり抜く。それが俺の人生さ」
ムーミンとの会話の中で、ときには寂しさも感じると吐露するスナフキン。
だが、「俺には旅があるよ。俺は決めたんだ。世界中を歩いてみようとね」と続ける。
そして、最後にこう締めた。
「一度決めたら最後までやり抜く。それが俺の人生さ」
そのスナフキンの言葉が、いつまでもムーミンの胸に深く刻まれた。
「嵐の中にボートを出すばかりが勇気じゃないんだよ」
パパと仲違いをしたムーミン。
だが、パパの本当の気持ちを知り、仲直りしたいと思っていた。
とはいえ、素直に謝ることが気恥ずかしく、モジモジしている。
煮え切らない態度のムーミンに、スナフキンは語りかける。
「ムーミン…嵐の中にボートを出すばかりが勇気じゃないんだよ」
困難な状況に立ち向かい、前に進むには勇気がいるだろう。
だが、己の非を認め相手に謝ることも、とても勇気が必要だ。
スナフキンの言葉に励まされ、「分かったよ!スナフキン。ありがとう!」と吹っ切れたような笑顔でムーミンは駆け出した。
「みんなと同じことをすることは容易いことだ」
根拠のない迷信が流布し、それに乗せられたムーミンはスナフキンに逆立ちを教えてくれるよう頼む。
ムーミン自身、本当は信じてはいなかったが周りで流行っていたこともあり、流されていたのである。
「パパが…みんなが…」と言い訳をするムーミンに、スナフキンは自分自身がどう思うかを尋ねる。
そして、スナフキンはこう言った。
「みんなと同じことをすることは容易いことだ」
薄々は間違っていると思っても周囲の同調圧力に流され、正しいことを出来ないことは実社会でも多々あることである。
だが、それを正す勇気がないが故に、誤った道に進んでしまう。
スナフキンは、ムーミンに真の勇気の意味を伝えたかったのだろう。
「本当の勇気とは自分の弱い心に打ち克つことだよ」
臆病で弱虫なメソメソは、オオカミのような強い兄弟が欲しかった。
だから、オオカミの鳴き声を真似ることにより、いつかオオカミがやって来て仲間に入れてもらえると思っていた。
意気地無しだとメソメソを笑うムーミンに、スナフキンは言う。
「でも、ムーミン…もっと意気地無しなのは、自分のした悪いことを隠して人を騙すことだよ。いくらオオカミのように強くても腕力があっても、そんなものは本当の勇気じゃないんだ」
そして、言葉を継ぐ。
「本当の勇気とは…自分の弱い心に打ち克つことだよ」
前述したように、スナフキンはたびたびムーミンに勇気について語っている。
“本当の勇気”とは…。
ムーミンだけでなく、現代に生きる我々もまたスナフキンに問われているような気がしてならない。
「人の好みは千差万別だと思います。もし、全部の人間が同じものを食べ、同じものに感動し、同じ本だけしか読まなくなったら、僕はそんな世界はつまらなく味気ないものだと思います」
ムーミンパパが、行方不明のムーミンを探し出してくれたスナフキンにお礼を言うシーン。
自分なりには探していたが見つけることが出来ず、自分のやり方が間違っていたのだろうか…と自問するムーミンパパに言ったのが、標題の言葉である。
聞こえの良い言葉を並び立て、表層的には多様性を語りながらも自分の価値観を押し付け、異なる思想を持つ者を激しく排除する現代のリベラリストたち。
彼らにも、スナフキンが語る本当の自由や多様性を知って欲しい。
「世の中には自分の思い通りになってくれない相手の方が多いんだよ。おべっかばかり使って友達になろうとする奴も同じくらい多い」
メソメソのために作った犬小屋を壊したムーミンに、スナフキンは優しく話しかける。
「君は牢屋を叩き壊したんだろう?メソメソのためにね」
その言葉にハッとするムーミン。
「ムーミン。自分の入りたくない所に無理やり入れられたら、君はどうする?自分のやりたいことを押さえつけられたら…君はどうする?」
スナフキンの言葉に、ムーミンは気が付いた。
「僕たちが作った犬小屋は牢屋だったのか…」
夜道を共に歩きながら、スナフキンは友に語りかけた。
「君はそのことに気付いたから犬小屋を壊したんだよ。世の中には自分の思い通りになってくれない相手の方が多いんだよ。おべっかばかり使って友達になろうとする奴も同じくらい多い。だけど、ムーミン。僕はそんな奴が大嫌いさ」
他人を自分の思い通りにすることが、傲慢な行為だと多くの人は知っている。
なぜならば、人の価値観は十人十色だからである。
ところが、いざその場になると無意識のうちに己の傲慢な心が顕れて、我執を通そうとするのが人の常である。
そして、人の心の醜さと真の友達についても語るスナフキン。
最初の放送から約50年経つが、その箴言は決して色褪せない。
聡明な少女・おしゃまさんへの箴言
偏屈なジャコウネズミを師と慕うおしゃまさんは、知的好奇心旺盛な女の子。
スナフキンはそんな彼女にアドバイスする。
「人と違った考えを持つことは一向に構わない。素晴らしい発見や素敵な哲学は案外、そんなところから生まれる場合が多いからね。でも、その考えを無理やり他の人に押し付けてはいけないなぁ~。その人には、その人なりの考えがあるからね。分かるね?おしゃまさん…そこが、君とジャコウネズミさんの違うところさ」
「は、はい!」
“人生の達人”の言葉に目を輝かせる、おしゃまさんだった。
「つまらない意地を張って優しい仲間を失うことは、美しい宝石を失くすことことよりも悲しいことだよ」
これは、ムーミンが意地を張るあまり、自分を心配してくれている友達に背を向けていた時の話である。
スナフキンの言葉に、以前「あなたにはルビーよりも美しいものがたくさんある」と言っていた水の精の言葉が甦る。
その瞬間、ムーミンは「ルビーよりも美しいもの…それは心の繋がった仲間のことなんだ!」と理解した。
人の涙や悲しみに思いを寄せる大切さ
ある晩、空から流れ星として落ちて来た“星の子”。
星の子は仲間たちのいる夜空を見つめて涙する。
ところが、何と!その涙は宝石と化すのである。
それを知ったムーミンたちは大喜び。
夜になると、星の子に夜空を見せては涙を流させていた。
そこに現れたスナフキンに、ムーミンは話しかける。
「良かったら、いくらでもあげるよ。素晴らしいだろう?」
その言葉を受け、スナフキンは静かに言った。
「実に素晴らしいよ…だから、涙はもっと大事にしたいもんだね」
その後、とても悲しいことに遭遇し涙に暮れるムーミンのもとに、スナフキンがやって来た。
「スナフキン。ぼく…どうすればいいの?」
ムーミンに、スナフキンは言い放つ。
「ムーミン…泣いてるのかい?人の涙を弄んだり、人の悲しみを省みない者が涙を流すなんておかしいじゃないか」
金銀財宝に目がくらみ、星の子の悲しみなど一顧だにしなかったムーミンたち。
そんなムーミンが悲しみに浸って、涙を流す資格なんてないじゃないか!と疑問を呈しているのである。
普段は温厚なスナフキンだけに、ムーミンの心に強く響いた。
必死に星の子を夜空に帰そうと奮闘するムーミン。
そして無事、星の子は故郷へ帰還する。
その様子をスナフキンは温かく見守っていた。
夜空を見上げ、もの思いに耽るムーミンの部屋の下に現れ、「おさびし山のうた」をギターで弾く“孤高の旅人”スナフキン。
その哀愁を誘うメロディーが沁みるエンディングであった。
最後に、「おさびし山のうた」の歌詞を掲載する。
雨に濡れ立つ おさびし山よ
我に語れ 君の涙の その訳を
リズム(RHYTHM) スナフキン ムーミンとなかま 目覚まし時計 電子音アラーム 13×15.3×8.3cm 4SE562MT03
まとめ
昭和40年代に放送された「ムーミン」シリーズ。
どこか素朴で、古き良き時代の面影を残す作品となっている。
とりわけ、ムーミンとスナフキンの関係性が素晴らしい。
まだ子どものムーミンは、ときに過ちを犯してしまう。
そして、両親や友達と衝突し、途方に暮れることもある。
だが、そのたびにスナフキンが良き友として傍らに寄り添い、ムーミンの悩みに耳を傾ける。
私がスナフキンに感心するのは、彼は決して「~すべき」「~をしなければならない」といった類の言葉で強制しないのだ。
あくまでも、スナフキンは助言やヒントを与えるだけで、どうするかを決めるのはあくまでもムーミンの自主性に委ねている。
それは、たしかにムーミンの素直さや善性があればこそなのかもしれない。
だが、無知で未熟な子どもに接したとき、我々の多くは辛抱強く見守ることが難しい。
それを出来るスナフキンの人間性、何よりも人としての器の大きさに感銘を受ける。
そして、そうした関係を築けるのは、スナフキンとムーミンが信頼の絆で結ばれているからだろう。
目的のためには手段を選ばず、「悪名は無名に勝る」というマインドが我が物顔で闊歩する令和の世。
未来を担う子どもたちだけでなく、我々大人も改めてスナフキンの言葉から学ぶべきではないだろうか。
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