私は今までの人生で、キャンプといったものには無縁の人生を過ごして来ました。
強いていうならば、学生時代に林間学校に行ったとき、キャンプ場でカレーを作ったぐらいでしょうか…。
そんなキャンプ初心者とも言えぬ、キャンプに縁もゆかりもない私がキャンプものの漫画にハマるのですから、人生は何が起きるか読めません。
ですが、それもそのはず、本作は累計部数220万部を突破する人気作品だったのです。
なんとなく雰囲気に惹かれて読んだ私ですが、クオリティの高さを思えばこの売上も納得です。
前置きはこの辺にして、野営の魅力満載の「ふたりソロキャンプ」の世界に皆様を招待します。
ストーリー
樹乃倉厳34歳独身。
趣味は独りキャンプ。
火を木を水を土を、自然を愛してる。
それと同様に孤独を愛している。
都会の喧騒を離れ、自然の中に独り身を置くとき、樹乃倉厳はこの上ない自由を感じるのだ。
ところが、ひょんなことからキャンプ場で知り合った草野雫に、強引に弟子入りを志願され仕方なく許可するはめに…。
まだ20歳の雫はキャンプ初心者ということもあり、マナーもノウハウもおぼつかない。
しかし、キャンプと自然の魅力を体験していくうち、人としても成長を遂げる。
そんな硬派で孤高の独身男とキャンプ初心者女子とが出会い、お互いを理解し交流を深めていくのであった。
登場人物
樹乃倉厳(きのくらげん)
樹乃倉厳を一流キャンパーに導いたのは彼の父親です。
小さい頃からふたりでキャンプに連れ立っては、ノウハウを一から教えてくれました。
「お前が独りで行くようになった時に、独りで全部できるようにならないと」
この口癖とともに…。
樹乃倉は不愛想でぶっきらぼう、典型的な人間嫌いです。
それは、子ども時代に由来します。
両親が離婚して間もなく、一緒に暮らしていた父親が亡くなりました。
人付き合いが苦手な樹乃倉少年にとって、父の存在はかけがえのないものでした。
母に見捨てられたため、結局祖父母に引き取られたものの、孤独を深めていきます。
そんな樹乃倉の支えとなったのが、父との思い出が甦るソロキャンプでした。
樹乃倉は年に一度キャンプ場で、普段は飲まない日本酒とひと手間かけた料理を嗜みます。
父の命日に夜空を仰ぎ焚き火に当たりながら、亡き父と酒を酌み交わすためでした。
そんな樹乃倉ですが、美味い料理を食べるときは普段のしかめっ面が緩みっぱなしになり、そのギャップがとてもユーモラスでもあります。
頑固で変わり者、だけど実はチョットいい奴…それが樹乃倉厳といえるでしょう。
草野雫(くさのしずく)
20歳の短大生で、卒業後は料理の専門学校に入学予定。
初登場の頃は、我儘で図々しく何一つ好感がもてませんでした。
ただ、料理だけは絶品で調理器具などの制約があるキャンプでも、ベテランキャンパー樹乃倉を唸らせる腕前を披露します。
そんな雫が、樹乃倉との最初の出会いで見た景色。
それは、息を呑むような満点の星空でした。
本当は、樹乃倉独りで堪能する予定でしたが、料理のお礼に見せてあげたのが運の尽き!?
その瞬間、草野雫は樹乃倉と“ふたりソロキャンプ”をすることを誓ったのです。
そして、樹乃倉厳のイズムを吸収し、徐々にキャンパーとして成長していくのでした。
ハウツー本
この作品はキャンプ初心者のためのハウツー本としても、活用できるのではないでしょうか。
主人公・樹乃倉厳がこよなく愛す焚き火からキャンプに使うギア(道具)まで教示してくれるのです。
微に入り細に入りイラスト付きで説明があるので、分かりやすく感じました。
そして、初心者にとって最初の難関がテントの設営ではないでしょうか。
かくいう私も、イベントでテント設営をした経験があるのですが、未だに苦手です。
キャンプでは組み立てだけでなく、場所選びや入口の方向など、様々な注意すべきポイントが存在します。
それを、雫を通して樹乃倉が丁寧に教えてくれるのです。
また、作中で樹乃倉が作る男飯に加え、雫のレシピも掲載しています。
あの気難しい樹乃倉が相好を崩しながら頬張る、“雫ごはん”は興味をそそられますよね。
それを自宅やキャンプ場でも再現できるのは、読者からすれば嬉しい限りです。
さらに、キャンパーとしてのマインドも醸成してくれます。
都会では当たり前の便利さが、大自然の中では当たり前でなくなります。
孤独を楽しむこととは、誰も助けてくれない環境で自分ひとりで何とかする、その不便さを楽しむことなのだと。
樹乃倉厳の教え
この物語で樹乃倉厳は、キャンプに関する様々なルールやマナーを説いています。
ですが、それは何もキャンプだけに当てはまることではありません。
人が当然になすべきことを示唆しています。
例えば、何の準備も知識もなくソロキャンプをしようとする雫に、樹乃倉は厳しく言い聞かせます。
「ソロキャンプは気楽だが、独りである責任も付きまとう。その責任を負えないヤツが、ソロをやる資格はない!」
自然は人の心を癒し、安らぎを与えます。
一方で、素晴らしさだけでなく、厳しさも持ち合わせています。
いや、本来自然は弱肉強食を原則とし、厳しく険しいものなのです。
そんな自然を敬うことの大切さ。
だからこそ、正しい準備や知識が必要であり、決して無謀になってもいけません。
それ即ち死と直結するからです。
そして、焚き火についても触れています。
樹乃倉曰く、食事と酒に並ぶキャンプ最大の楽しみが焚き火です。
自ら熾した火に薪をくべ、独り炎と佇む静寂が支配する空間。
たしかに、樹乃倉ならずとも、大自然と調和するその光景を想像するに、何とも贅沢な時間に思えてきます。
知識のない私は、焚き火は直接地面で落ち葉などを燃やすものだと思っていました。
ですが、キャンプでは、焚き火台を使用するのが主流だというのです。
直に地面で行う焚き火を「直火」というのですが、そもそも何故この直火は禁止されることが多いのでしょうか。
第一に、ローインパクトという考え方があります。
直火は直接地面にダメージを与えるので、地中の微生物を殺したり、芝生を焼くと簡単に生え変わらなかったりするからです。
ですが、最大の理由は利用者のマナーの問題だと、樹乃倉は語ります。
周りの環境に配慮せず、燃やしてはいけないものを燃やし、後片付けもろくにしない。
こんな当たり前のことをできない利用者が、直火文化の灯を消し去っているのです。
そして、それは焚き火だけでなく“ゴミの後始末をしない”“キャンプ場のルールを守らない”、こうした迷惑行為を行う愚か者のせいで、キャンプ場が苦しめられているのです。
そして、樹乃倉厳は雫に語りかけます。
「自分をお客様だなんて思うな。へりくだる必要はないが、横柄にはなるな。ルールとマナーを守るという、当たり前のことをするだけだ。自分にとっても他の仲間(キャンパー)にとっても、自分たちの遊び場を荒らして使いづらくするなんて馬鹿みたいじゃないか。ここが、こここそが、俺たちの居場所なんだから…」
その樹乃倉の言葉に、真摯に耳を傾ける草野雫なのでした。
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まとめ
本作はベテランキャンパーからキャンプ初心者まで、楽しめる良作だと思います。
私のような野営の海を泳いだことのないキャンプ未経験者も、惹きつけて止まない魅力あふれるストーリー仕立てになっています。
野生動物だけでなく人間もまた、自然の営みに生かされています。
つい忘れがちなこの真理を、樹乃倉厳は我々に思い出させてくれるのです。
そして、雫も樹乃倉との出会いを通し、自然への畏敬の念と素晴らしさを学んでいきます。
また、長崎の佐世保で生まれ育った作者は少年時代、海と山に囲まれた故郷で父親とキャンプに明け暮れていました。
本作には、そんな作者ならではのキャンプ愛が詰まってます。
読めば、すぐにでもキャンプに行きたくなる物語。
それが「ふたりソロキャンプ」です。
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