闇に育ち、闇に生きたリヴァイ・アッカーマン。
そんな不遇の運命に生まれた男が、いつしか巨人に対抗しうる人類の希望となる。
しかし、リヴァイ班だけでなく多くの兵士が人類のため、そして愛する者のため、巨人に立ち向かい帰らぬ人となった。
リヴァイはひとり、尊い犠牲の意味するものを胸に刻み込む。
冷徹さと厳しさ、そして時に隠し切れぬ優しさが滲み出る。
そんなリヴァイ兵長の生き様を振り返る。
リヴァイ・アッカーマンとは
リヴァイは一見すると目つきが悪く、それに輪をかけて口が悪い小男である。
だが、人となりを知れば知るほど、作中随一の人気を誇るのも頷ける。
リヴァイをひと言で表すならば、誰にも媚びずおもねらず、圧倒的な個の力で己を貫く孤高の兵士といったところだろうか。
たが、この暗い目をした人類最強の男には、どこか影が付きまとう。
それは出自に由来する。
リヴァイはアッカーマン家の血を受け継いだ。
しかし、その家系は王家から迫害を受けたため、彼の母親は娼婦に身を落とし、幼い我が子を残し死んでしまう。
天涯孤独となったリヴァイだが、叔父の“切り裂き”ケニーに助けられた。
以後ケニーの下、暴力が支配する地下街で生きる術を身に付けていく。
そして、後に調査兵団長となるエルヴィン・スミスと運命の邂逅を果たすのだった。
心優しき兵長
リヴァイは極度の潔癖症である。
なにしろ巨人との戦闘中にもかかわらず、返り血を浴びると「汚えな」と毒づきながら、ハンカチで拭うほどだった。
そんな男が部下の死に際には血に染まる手を握りしめ、安らかな最期を迎えられるよう言葉をかけるのだ。
こんなところにも、部下想いの心根が垣間見える。
リヴァイは不器用な性格も手伝って、部下だけでなく時として上官にも辛辣な言葉を投げかける。
だが、その奥には得も言われぬ優しさが隠れている。
それは、アルミンがジャンを敵から守るため、初めて人を殺めたときだった。
アルミンは罪悪感から嘔吐を繰り返し、食事を受け付けない。
そんな部下の姿に、リヴァイは皮肉たっぷりな言葉をぶつけた。
「どうしたアルミン。こんな汚え馬小屋じゃ、飯なんぞは食えねえか?アルミン、お前の手は汚れちまったんだ。新しい自分を受け入れろ」
まだ訓練兵を卒業して間もない、ほぼ実戦経験もないアルミン。
年端もいかぬ少年が、敵とはいえ初めて人を手にかけたのである。
そのショックは想像に難くない。
粗暴な物言いのリヴァイに、人の心があるのか疑った。
だが、兵長は私の浅慮を嘲笑うかのように、励ましの言葉をアルミンに送る。
「もし、今もお前の手が綺麗なまんまだったら、今ここにジャンはいないだろ?お前が引き金をすぐに引けたのは、仲間が殺されそうになっていたからだ。お前は聡い。あの状況じゃ半端なことはできないと、よく分かっていた。あそこで物資や馬・仲間を失えば、その先に希望は無いのだと理解していた。アルミン…お前が手を汚してくれたおかげで俺達は助かった。ありがとう」
口さがないリヴァイは、いつもこういった感じである。
まず容赦ない皮肉で口火を切る。
しかし、その後に口調こそぶっきらぼうだが、相手を思いやる言葉をかけるのだ。
ときに、口下手なリヴァイは思うように言葉にできないが、ハンジが通訳を担い真意を伝えることもある。
そんなとき、柄にもなく素直に感謝するリヴァイに思わず相好を崩してしまう。
盟友 エルヴィン・スミス
出会い
ゴロツキ同然だったリヴァイがエルヴィンや調査兵団と接するうち、崇高な志に感化されていく。
ところが、自らの選択ミスにより、地下街の仲間が巨人に命を奪われた。
己を責め、後悔に襲われるリヴァイにエルヴィンは言い放つ。
「違う!(お前のせいじゃない)巨人だ!!我々は巨人について無知であり、壁の中にいるだけでは劣勢は覆せない。私たちは壁の外へ出るのを諦めない」
そして、言葉を継ぐ。
「調査兵団で戦えリヴァイ!お前の能力は人類にとって必要だ」
かけがえのない友を失ったリヴァイは、こうして新たな仲間と共に絶望的な戦いに挑んでいく。
別れ
ウォール・マリア最終奪還作戦にて“超大型巨人”ベルトルトを倒すためアルミンが囮になり、巨人が放つ熱風に炙られた。
その甲斐あってエレンの奇襲攻撃が実を結び、ベルトルト捕獲に成功する。
だが、その代償はあまりにも大きく、アルミンは黒焦げになっていた。
ところが、奇跡的にまだ息をしているではないか!
実は、リヴァイは巨人になるための注射を保持していた。
エルヴィンから託され、必要があれば使用する旨申し伝えられていたのである。
この注射をアルミンに打ち巨人化させ、ベルトルトを食わせれば、命が助かるだけでなく再び人間に戻れる。
当然、エレンはリヴァイに注射を打つよう促した。
一拍の間を空け、リヴァイは承諾する。
そこに、“獣の巨人”掃討のために囮になり、瀕死状態に陥ったエルヴィンを運ぶ兵士が現れた。
一転、リヴァイはエルヴィンを救おうと翻意する。
先ほど間が生じたのは、万が一にもエルヴィンが生存している可能性がよぎったからだった。
食い下がるエレンとミカサに、リヴァイは言う。
「俺は人類を救える方を生かす。お前らも分かっているはずだ。エルヴィンの力無しに人類は巨人に勝てないと」
それでもなお、納得がいかないエレンとミカサは力づくで注射器を奪いにかかる。
さすがの人類最強の男も何十体という巨人との戦闘後ということもあり、ミカサに刃を突きつけられ押さえ込まれてしまう。
だが、ハンジの身を切るような説得に、ついにミカサは折れた。
兵団の面々に、この場所から立ち去るよう厳命するリヴァイ。
そして、エルヴィンと二人きり、刹那のときを過ごす。
すると様々な思い出が甦り、ある想いに突き動かされ、最後の最後でアルミンを選んだ。
正確に言うならば、エルヴィンを選ばなかったというべきか。
理由を訊かれたリヴァイは、鎮痛な面持ちで言葉を絞り出す。
「こいつを許してやってくれないか?俺達が望んだせいで、こいつは悪魔になるしかなかった。だが、やっと地獄から開放されたんだ…もう休ませてやらねえと」
リヴァイも人類のためには、エルヴィンを救うのが最善だと確信していた。
だが、盟友への想いが溢れ、私情を優先する。
多くの仲間達を死地に向かわせ、自らの命令で死屍累々を築くという、生き地獄から解放してやりたかったのである。
リヴァイは決して忘れることができなかった。
「夢を諦めて死んでくれ。新兵達を地獄に導け。獣の巨人は俺が仕留める」と言ったときのことを。
なぜならば、「リヴァイ…ありがとう」と答えたエルヴィンの眼がとても澄んでいたからである。
私は以前、“死は救いである”という台詞を見たことがある。
リヴァイとエルヴィンのやり取りに、その言葉を思い出す。
それにしても、なんという究極の選択なのだろう。
リヴァイにとってエルヴィンは“人類のため”という以上に、最も大切な盟友である。
ともに生死を潜り抜けた仲間であり、皮肉屋のリヴァイが心底認めた英雄だった。
本来ならば、誰よりも生かしたい人物に違いない。
にもかかわらず、エルヴィンの魂の安寧を優先し、今わの際を見届けた。
思えばリヴァイ・アッカーマンという男は冷たいようで、いつも仲間のために心を砕いていた。
こんなところが、読者の心を穿つのだろう。
戦友 ハンジ・ゾエ
地鳴らしに突き進む巨人を足止めすべく、ハンジが人身御供を買って出た場面。
「みんなをここまで率いてきたのは私だ。大勢の仲間を殺してまで進んだ。そのけじめをつける!」
視線の先にリヴァイがいた。
「オイ…クソメガネ」
「分かるだろリヴァイ。ようやく来たって感じだ…私の番が!今最高にかっこつけたい気分なんだよ。このまま行かせてくれ」
恐怖に苛まれながらも、使命を果たさんとするハンジ団長にリヴァイは万感の思いで語りかける。
「心臓を捧げよ」
調査兵団の謳い文句を、ハンジはリヴァイの口から初めて聞いた。
その言葉に勇気が奮い立ち、巨人のもとに飛び立つハンジ・ゾエ。
勇敢な最期を遂げた同志の姿に、リヴァイはそっと呟いた。
「じゃあなハンジ…見ててくれ」
ひとりまたひとり古参の仲間は泉下の人となり、今や二人のみが生き残っている。
その戦友が調査兵団の長として、最後の役目を全うした。
先の戦闘で片目を失い、右手の指もなくしたリヴァイ。
人類最強といわれた男が未だ傷が癒えぬまま、仲間を見送る胸中は察するに余りある。
リヴァイとハンジ。
ふたりの今生の別れ…それはあまりに切ない。
まとめ
エルヴィン、ハンジ、そしてエレン…。
己が信念を貫き、心臓を捧げた兵士たち。
いや彼らだけでなく、数多の勇者達が死の恐怖に打ち克ち命を捧げてきた。
ミカサが最愛のエレンの首を討ち、人類の8割を消し去った地鳴らしは終焉した。
その瞬間、リヴァイは懐かしい仲間とつかの間の再会を果たす。
「よお…おまえら…見ていてくれたか?これが結末らしい。お前らが捧げた心臓の…」
満身創痍のリヴァイは拳を心臓に当て、調査兵団兵士長として最後の敬礼をする。
その頬には…ひとしずくの光るものが流れていた。
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