14歳の清廉なる日常「うちの小さな女中さん」レビュー

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「うちの小さな女中さん」は第二次世界大戦の少し前、昭和9年を舞台にした物語です。
今は亡き私の母が生まれた年でありますが、どうでもいいですね(笑)

ひと言で表すならば、主人公にして女中のハナちゃんと、女主人・蓮見令子が織りなす微笑ましくも清廉な日常を描く作品です。

古き良き時代の風を感じさせる「うちの小さな女中さん」。
その優しい世界観を覗いてみましょう。

あらすじ

2年前、夫を亡くした蓮見令子は翻訳家として日常を過ごしている。
家事があまり得意でないため家政婦を頼んでいたが、息子夫婦と隣町に引っ越してしまい、新しい家政婦を探していた。

そこに現れたのが、14歳の少女・野中ハナだった。
生真面目な性格の彼女だが、何とも言えない愛らしさがある。

そんなハナちゃんを単なる女中さん以上に愛おしく思う令子。
優しい令子のため真心を尽くすハナ。

こうして、主従を超えたふたりは穏やかな日常風景を紡いでいく。

登場人物

野中ハナ

主人公の野中ハナことハナちゃんは、14歳の女中さん。
大きな眼鏡に、三つ編みおさげがよく似合う姿は純朴そのものです。
ですが、その容姿に反し14歳にして家事全般をこなす、卓越した能力を身につけていました。

幼くして両親を亡くし遠縁の親戚に10歳まで預けられた後、女中として御屋敷勤めに奉公し、現在に至ります。
実は、蓮見令子が翻訳した童話を後生大事にするほど憧憬を抱いていたこともあり、二人の出会いが実現しました。

その人柄は礼儀正しく働き者、またユーモラスな仕草と表情がチャームポイントで、近所の御婦人方やお店の人々にも可愛がられています。
生い立ちから苦労のほどが窺えますが、微塵もそんなことを感じさせないところがハナちゃんの凄いところです。
それどころか、最低限の衣食住でも足ることを知り、日々の暮らしに感謝する様は現代に生きる我々も見習うべきでしょう。

蓮見令子

美しい容姿だけでなく心優しい家主として登場するのが、翻訳家の蓮見令子です。
和装に加え、洋服も着こなすモダンさも魅力といえるでしょう。

2年前に最愛の夫を亡くし、その悲しみが未だ癒えぬことが作中のふとした場面で垣間見えます。
ですが、ハナちゃんとの出会いにより、柔らかい笑顔を取り戻すようになりました。

ハナちゃんに向けられる柔和な眼差しは、まるで妹か娘を見るかのようです。
まあ、令子さんならずとも、みなハナちゃんには相好を崩してしまうでしょうが。

ユーモラスなハナちゃん

「おうちのラジオ」の回では、ハナちゃんがラジオを聞きながら、畳の上でクロールとバタ足を練習する姿が何ともユーモラスでした。
ところが、あれだけ練習したのに、実際に海に行くと全く泳げないところも笑ってしまいます。
しかも、本人は至って真剣そのものなのが、ハナちゃんワールド全開です。

「台所事変」では、ちょっとした不注意により魚を腐らせてしまったときのハナちゃんの表情に吹き出してしまいました。
普段は可愛らしいハナちゃんが、その瞬間マフィアお抱えの殺し屋のような表情に豹変するのですから。
このように真面目かつ素朴なハナちゃんですが、その豊かな表情の変化が何とも言えず面白いのです。

別の話では、休日に令子さんとお出かけすることになったハナちゃんは、まるで旅行に行くかのような出で立ちです。
若い身空で余暇を楽しむことなく、働き詰めの彼女ならではのエピソードといえるでしょう。

初めての映画に、ハナちゃんは目を輝かせます。
デパートに行くと、そこは今まで経験したことのない別世界。
慣れないエスカレータに戸惑いながら、令子さんとお茶に向かいます。
そして、初めて出会ったクリームソーダの衝撃。
そのあまりの美味しさに放心状態になり、目を白黒させる姿の可愛らしさ、可笑しさといったら…。

ハナちゃんは完食し、呟きます。

「夢のような味でした…」

そんなハナちゃんを、優しく見つめる令子さん。
本当の幸せは…何気ない日常にあることを実感させられます。


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主人思いの優しいハナちゃん

ハナちゃんは主人の令子さんに普段から感謝を忘れません。
その思いが滲み出るシーンを紹介します。

「ハナのおでかけ」

ハナちゃんが令子さんを大切に思っている様子が分かる話です(というか、全話そうなのですが)。

ハナちゃんはお休みの日に便箋を買いに出かけます。
以前勤めていた御屋敷で世話になった人々に手紙を書くためです。
ついでに、休日を一人で楽しむというミッションも胸に秘め…。

無事買い物を終えたハナちゃんは、はたと気づきます。
休日の予定が、これにて終了したことを…。

ついつい、普段食材の買い出しに行く道に足が向かいます。
魚屋ではあさりが目に止まり、八百屋ではナスを勧められ、思わず買ってしまいました。
それもこれも、令子さんが美味しそうに食べる様子を想像してのことでした。
また、御婦人たちに呼び止められ、大量の紫蘇を貰います。
暑い夏には紫蘇ジュース!の言葉に、ぜひ令子さんに飲んでもらいたいと思ったからです。

ハナちゃんは家に帰ると早速、紫蘇ジュースを振る舞います。
スッキリとした味わいに、令子さんは舌鼓を打ちました。
そして、ハナちゃんと一緒に紫蘇ジュースを飲みながら、お出かけの話を楽しそうに聞く令子さん。

主人を思うハナちゃんの健気さ。
そして、令子さんの穏やかな人柄、そしてハナちゃんへの温かい眼差しが印象に残る回でした。

「その背中に」

その日、令子さんは何をやっても上手くいきませんでした。
編集者には仕上げ前の原稿を渡してしまい、出先では気分転換に茶店に向かうも満員で断られ、ハナちゃんのお土産に美味なるコロッケをと立ち寄るも臨時休業の憂き目に遭います。
とどめに、子ども達が遊ぶ水鉄砲が直撃し、ビチョビチョに…。

「どうしてもハナちゃんに、あのお店のコロッケを食べさせたかった。久々に私も食べたかったのに…」と残念がる令子さんを見て、ハナちゃんは閃きます。
コロッケ作っちゃおうと!
作り方がわからないので、料理本を見ながら奮闘しています。

私はコロッケ作りの工程を知り、改めて実感いたしました。
なんて、手間暇かかるのだと!
しかも、ハナちゃんの時代、挽き肉から作るのです。

そこに、原稿用紙に墨を垂らして凹む令子さんがやって来ます。

「ひょっとして今作ってるのって…」

驚く令子さんに、ハナちゃんは恥ずかしそうに答えます。

「はい…その…お店のようには作れないと思うのですが…」

令子さんは“小さな女中さん”の心遣いに、気持ちが晴れました。
そして、揚げたてを口にすると…。

「ん〜ッ 美味しい!」

そして、ハナちゃんにも勧めます。
ひとくち頬張るハナちゃん…。

「……!!」

あまりの美味しさに声も出ません。
その様子に令子さんはニッコリ微笑みます。

「ありがとうねハナちゃん。おかげで今日は良い日だわ」

ハナちゃんの思いやり。
そして、あれだけ不運に見舞われながらも、“小さな女中さん”の真心に「今日は良い日だわ」と言える令子さんの優しさと包容力。
見ているこちらまで、幸せな気分になりました。

まとめ

決して派手さはなく、淡々と昭和初期の日常を描く「うちの小さな女中さん」。
ですが、現代では失われた丁寧な生活を描く本作は“平凡は妙手に勝る”を地でいく良作といえるでしょう。

読めば心が温かくなり、凛とした清廉な生活に憧れる。
そして、またハナちゃんに会いたくなる。
そんな「うちの小さな女中さん」の優しい世界を覗いて見ませんか。


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