警察マンガの金字塔「ハコヅメ」 源誠二&山田武志 ~モジャツンコンビの人間力~

マンガ・アニメ




警察マンガの決定版「ハコヅメ」。
この名作の主役といえば、“空気の読めないおかっぱ天然娘”川合ちゃんと“超優秀メスゴリラ”藤聖子巡査部長を置いて他にいないでしょう。

ですが、本作にはフレッシュな若者から酸いも甘いも噛み分けたオッサンまで、多士済々な面々が登場します。

中でも個人的にお気に入りなのが、源誠二巡査部長と山田武志の隠れイケメンコンビです。
今回は主役の美女?ふたりを脇に追いやって、彼女がなかなかできないバディを紹介します。

源誠二

天然パーマのブロッコリーヘアこと源誠二巡査部長。
ちなみに、モジャモジャの天パをカットし短髪にすると、あら不思議。
あっという間にイケメンに早変わりするのですが、本人は無自覚なうえ、周りもなぜか内緒にしています。

そんな彼は警察学校をドンケツで卒業したものの、その特殊能力は刑事課には欠かせません。
巧みな話術と天性の人たらしが相まって、アイス一本食べる間にどんな被疑者も落ちるという、取り調べの天才なのでした。




山田武志

源とコンビを組むツンツン頭の後輩・山田武志も、署内一の体力バカだけあって単純ですが、とても心根の良い奴です。

そんな人の気持ちが分かる真っ直ぐなナイスガイのため、取り調べを受けた若い女性はかなりの確率でファンになってしまいます。

ちなみに、源も老若男女問わず好感を持たれる好漢です。(ただし若い女性人気は格段に下がりますが…)

それぞれの優しさ

牧ちゃんこと牧高美和は山田と同期で、刑事課捜査一係の紅一点です。
司馬遼太郎と新選組をこよなく愛す歴女ですが、一流企業にいてもおかしくない事務処理能力を誇ります。
しかし、運動音痴が玉に瑕。
なぜ、肉体労働がメインの警察官を志望したのか…。
やはり、彼女も変わり者といえるでしょう。

いつものように、牧ちゃんは休日出勤してました。
誰もいない事務室は静寂に包まれヤル気みなぎる彼女ですが、張り込みで徹夜明けの源と山田が帰って来た途端、保育園児顔負けの騒がしさにヤル気ゲージが一気に萎みます。

休日出勤した刑事たちとランチに行った後、牧ちゃんは課の備品購入に向かうことになり、源&山田の“モジャツンペア”が荷物持ちとして付き添います。

買い物を済ませた道中、源がちょっと寄りたい場所があると言い出します。
そこは、先日空き巣被害に遭った独り暮らしのおじいさんの家でした。
おはぎを手土産に源が顔を出すと、庭で土いじりをしていたおじいさんは嬉しそうです。
早速、お茶を出してくれましたが、牧ちゃんは浮かない顔をしています。
なぜならば、急須を持つ真っ黒な手は洗ってないことが明らかでした。
しかも、急須や湯呑みも汚いうえ、お茶は山から摘んだ野草ということもあり、匂いも強烈です。

逡巡する牧ちゃんの様子を、山田が見逃すはずがありません。
自分のお茶を一気に飲み干すと、さり気なく牧ちゃんの湯呑みを手に取り、飲み始めるではありませんか!
牧ちゃんが安堵したことは言うまでもありません。

一方、源はおじいさんの話に耳を傾けています。
空き巣に入られて以来、夜も眠れず不安な日々を過ごしていたのです。
でも、源たちの顔を見て安心したようで、ホッとした表情を浮かべていました。

実は、源と山田が徹夜で張り込みをしていたのは、空き巣犯の捜索のためでした。
そして、源は「きっと、おじいさんは不安だろうな…」と思えばこそ、溜まった書類仕事を後回しにして寄り道したのでしょう。

帰り道、牧ちゃんはふたりの背中を見ながら思います。

「私にとっては暑苦しいだけの大きな体も誰かにとっては頼もしかったり、能率的な仕事の妨げになる人懐っこい性格も誰かを安心させたりするんだろうな…」

そして、心の中で呟きます。

「繰り返すばかりの私の仕事も、何かの役に立っているはず…明日からまた頑張ろう」




源誠二の人間力

その日、川合と藤聖子は徹夜明けだというのに、交通立哨に従事しています。
ですが、川合はこの仕事が好きでした。
朝、交差点に立っていると、子どもたちの元気な挨拶が聞こえて来るからです。

子どもたちを安全に誘導していたその時、減速せずに交差点に進入して来る一台の車両。
川合は子どもたちを逃がしながら、必死に笛を吹き誘導棒を振りかざしますが、ドライバーは気づかない様子で突っ込んで来ます。
川合は咄嗟に覚悟を決め、身を挺して子どもたちを庇いました。

その瞬間、藤は「っ…川合!」と絶叫します。
間一髪、轢かれる寸前で停車し、足にコツンとバンパーが当たっただけの軽症で済みました。

車から降りて来たドライバーは、やれ子どもが死角にいて気づかなかっただの、スマホいじってて3秒間だけ目を離しただけだの、言い訳に終始します。
その態度に、現場に駆けつけた交通課の宮原部長は厳しい表情で言いました。

「でも、お兄さん…運転中3秒目を瞑れって言われたら怖くてできないでしょ?同じことだよ。さっきお兄さんが轢いたお巡りさん、腰に拳銃ぶら下がってるでしょ?あれね、警察学校でほぼ毎日1年間、練習を続けてやっと吊るさせてもらえるんだ。それでも、アレを一回でも使ったことがある者はほとんどいない。
それに比べて、あの拳銃より遥かに殺傷能力の高い車を使うのに、約1ヶ月の講習受けて免許さえ取れば、18歳以上ならば原則使いたい放題だ」

それを受け、藤巡査部長は鬼の形相でドライバーを睨みつけながら言い放ちます。

「銃撃戦に臨むくらいの緊張感をもって運転しても、罰は当たらないんじゃないかな…お兄さん!」

実は、藤と同期の桜しおりが勤務中に轢き逃げされ、命こそ取りとめたものの未だ社会復帰できずにいたのです。
桜と藤は親友で、そのことを今も引きずっていました。

署に戻り、藤は休憩室で独り腰掛けています。
そこに、源がふらりと現れました。

「あ、聖子ちゃんお疲れ様。なんか大変だったみたいだね」

藤はその時のことを話しますが、缶コーヒーを持つ手が震えてます。
ペアの後輩・川合の覚悟と成長を嬉しく思う反面、あの瞬間の恐怖が蘇っているようでした。

「そっかそっか…制服着てるときは、警察官の面構えでいろってね」

そう言うと、藤の手から缶コーヒーを取り、蓋を開けてあげました。
気が動転していたからか、指が震えタブを起こせなかったからか…あるいはその両方か…。

藤にコーヒーを渡すと、源は続けます

「でも、所詮はみんな制服の中身なんてしょうもない人間で、どれだけ場慣れしてたつもりでもヤバイ現場の後は体わなわなして自分でも驚くなんて、情けないけど普通のことでしょ」

すると突然、源は「あ!スマホゲームのイベントの時間だ」と言うなり、くるっと背を向けます。

「しばらくの間、見逃して。ダメな奴だね、ごめんごめん」

ようやく、藤は缶コーヒーに口をつけると、安心したのか涙が零れ落ちました。

実は、源と藤は同期だったのです。
警察学校で苦楽を共にしたふたりは、固い絆で結ばれていました。
もちろん源は、藤が未だ桜のことを引きずっていることを承知で、声をかけたのです。

書類作業はからっきしの源ですが、人の心の機微が分かる男であり、さりげなく缶コーヒーを開ける場面に彼の優しさが垣間見えます。
そして、藤の様子を見て取り、ゲームをするふりをして背中を向けます。
通行人から涙を流す藤が見えないよう、ポジショニングを取って立ちながら…。

この間一度も、押しつけがましい態度など取りません。
むしろ、自分が悪者になって藤聖子の心を守るのです。
こんな同期がいたら、最高ですよね。

山田だけでなく源も、本当に大切なことを知っている“モジャツンペア”なのでした。


ハコヅメ~交番女子の逆襲~(1) (モーニングコミックス)

まとめ

本作は何かと国民から叩かれる警察の名誉回復に、多大なる貢献を果たした作品といえるでしょう。
凶悪犯罪を扱う刑事だけでなく、市井の人々の暮らしを守るため、交番勤務の警察官がどれだけ奮闘努力を重ねているか理解できるからです。

そして、「ハコヅメ」は犯罪被害者の悲哀を我々に伝えてくれもします。
馴れや油断が招いた、取り返しのつかない轢き逃げ事件。
この漫画を読めば、いかに自動車という鉄の塊が恐ろしい凶器となり、人々の未来や幸せを簡単に奪うのかが分かります。

また、醜い劣情の捌け口になった10代少女の心の傷。
そんな少女のトラウマを少しでも和らげようとする、川合をはじめとする警官たち。

たしかに、このマンガは秀逸なギャグセンス、そして感嘆を禁じ得ない伏線が散りばめられています。
ですが、私はそれ以上に思うのです。
少しでも多くの人に読んでもらえたならば、犯罪抑止に寄与できるのではと。

今日も、“モジャツンコンビ”はユーモアと多少の迷惑を振りまきながら、安心安全な市民生活を守るため尽力していることでしょう。

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