「闇に降り立った天才」赤木しげるの名言・名場面㉓ 
鷲巣編part8『鷲巣巌の嗅覚』

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5回戦オーラス5本場。
連荘を続ける親のアカギは鷲巣を破滅させるべく、止めのリーチをかける。

鷲巣も負けじとテンパイを果たし追いついた。
もちろん勝負したいところだが、アカギに満貫を打ち込むと資金が底をつき、その瞬間ゲームセットとなる。

果たして、鷲巣の選択やいかに…。

運命のオーラス5本場

「来いよ鷲巣!貧しき者…!」

この期に及んで挑発するアカギ。
一瞬、鷲巣は頭に血が上るが、すぐに冷静さを取り戻す。
自重を促す部下にこう言った。

「安心しろ!わしは冷静だ。しやせぬ…暴牌など!それでも打九筒で勝負だっ…!」

部下たちは慌てふためくが、鷲巣は言葉を継ぐ。

「なぜならば、安全だからだ!この九筒は…!たしかに、アカギの手牌を見れば筒子待ちが濃厚だが、⑥⑦⑧⑨のノベ単や普通の単騎待ちは考え難い。理由はリーチ宣言牌の北にある。もし単騎待ちなら、仲間の刑事が持っている北で待つはずだ!なにしろ、このギリギリの状況で差し込みの保証付きなのだから…。奴はそれをしなかったのではなく、出来なかったのだ!単騎待ちに…!」

だが、部下はなおも自制を促した。

「鷲巣様のおっしゃる理はよく分かりますが、ひょっとするとアカギは…鷲巣様の手牌から九筒があふれることを見越して、敢えて刑事の差し込みの保証がある北ではなく、九筒で待っているのではないか…そんな暴挙をアカギなら…」

「裏目があるではないか…!もし、わしが先に八筒を引いたら九筒は出ないのだぞ!不要だ!そんなリスクは…!アカギは選べたのだ…刑事が一発で差し込めば満貫が確定し、裏ドラ次第では跳満まである。それで十分じゃろ!」

そう言い終えた鷲巣は自問する。

「生き死にだ…!遊びの麻雀じゃない…打てば死ぬという極限の状況だ。このギリギリの状況下で、誰が蹴れるというんだ…安全を…!あがれば、12000もしくは18000点…蹴れる訳がない!そんな圧倒的な誘惑を…!」

九筒に手をかけ、今まさに捨てようとした刹那のことだった。
脳裏に官僚や政治家など、自らにすり寄って甘い汁を吸い尽くした者たちの顔が浮かんできた。
鷲巣と共謀し税金・補助金などを抜きに抜き、甘い蜜に群がった亡者どもの顔は精神の臓腑を腐らせたかの如き醜悪さに満ちていた。
欲と保身に絡め取られた彼らのマインドは、常にノーリスクで確実なリターンを欲していたのである。

翻って、目の前にいる赤木しげるはそんな境地からあまりにも遠かった。

「危ない…!本命だ…この九筒!この男は考えない…ノーリスクで確実なリターンなど!普通なら愚行・悪手でも、この悪魔は犬死を辞さない!あふれる才気を持ちながら惜しげもなくドブに捨て、潔く死ねる男!今はアカギの狂気と噛み合っている交差の時…ぶつかってはダメだ!」

その刹那、「闇の王」 鷲巣巌に理外の理・第六感が舞い降りる。
異端の嗅覚で、九死に一生の生還への道を嗅ぎ取った。
部下の手牌を一瞥すると、自らのテンパイを崩し部下に急所を食わせにかかる。
部下が不要牌を切ると鷲巣がポンをし、再び部下の欲しいところを鳴かせる。
この連携プレーを繰り返し、最後は鷲巣が差し込んで5回戦のオーラスが終了した…。




所感

果たせるかな、アカギのテンパイは⑥⑦⑧⑨の六九筒待ちだった。
やはり鷲巣の読み通り、赤木しげるはリスクを覚悟の上で鷲巣の破滅を目論んでいたのである。

この生き死にがかかった極限下において、安全という甘い果実を一顧だにしない赤木しげる。
死んだ人間が何も欲しがらないように、潔く身を捨てられるところが“神域の男”の面目躍如だろう。

だが、“巨魁”鷲巣巌もまた異端者だった。
昭和の闇を駆け抜けた驚異の嗅覚と豪運で、悪魔が仕掛けた罠をギリギリのところですり抜けた。

私が今回の話で最も印象に残ったのは、九筒を切ろうした瞬間に鷲巣の脳裏によぎった金の亡者達の腐臭漂う笑顔である。
今現在、令和の世でも繰り広げられている政官財を跋扈する曲者達を見ているような気分になった。
汚職やスキャンダルに塗れた者達は、みな一様に欲と贅を尽くした面相になっている。
まさに、鷲巣に群がった人物と瓜二つといえる醜悪さではないか。

それとは対極に位置する赤木しげるの佇まい。
社会的な地位を築くその裏で邪悪な素顔を隠す亡者どもとは、あまりにも違い過ぎる澄み切った魂。
そこには一切の欲は無く、ましてやリスクを恐れ保身に走る様子など微塵もない。
ただひたすらに己の身を切りながら、今できる最善を尽くす精神が存在するのみである。

改めて、なぜ赤木しげるに惹かれるのか、理解できた気がした。

そして、鷲巣巌である。
そんな赤木しげる渾身の闘牌も人間離れした嗅覚により、寸でのところで成就しなかった。
アカギのリーチを受けた土壇場で細い糸を手繰るように、起死回生の道筋を見つけ出す才覚はさすがである。
だが、それ以上に部下とポンチーの連携プレーでアカギにツモ番を回さず、差し込める手牌構成になっていたことこそが“生まれながらの王”たる所以だろう。
鷲巣の強運ぶりは健在だ。

いずれにしろ“鬼才”赤木しげる渾身の猛攻を、鷲巣巌は紙一重で凌ぎ切った。


アカギ-闇に降り立った天才 16(本作品収録巻)

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