「闇に降り立った天才」赤木しげるの名言・名場面㉒ 
鷲巣編part7『異例のオーラス続行』

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東ラス、鷲巣の神がかり的な打ち回しが炸裂し、跳満をツモあがる。
親のアカギは6000点をかぶったことにより600㏄の血液を抜き取られ、ついに累計で致死量の2000㏄に到達した。

誰もが万事休したと思った瞬間、赤木しげるは地獄の底から生還した。
戦いに赴く直前に病院に寄り、予め抜き取っておいた血液500㏄を戻していたのである。

いよいよ、鷲巣麻雀は5回戦の南場に突入した。

5回戦南入

南入し、1万点以上のリードを奪う鷲巣だが、アカギの虚々実々の駆け引きに翻弄されていく。
前に出ると余り牌を討ち取られ、弱気になって回し打ちをした途端、伏兵の安岡のダマテンに振り込んでしまう。
まるで、手にしていたはずの幸運がいつの間にか悪魔に魅入られたように、災いの種にすり替わっていた。

そして、南3局には散々ぱらアカギの掌で踊らされた挙句、見え見えのリーチに一発で倍満を放銃した。
アカギの自在かつ心を弄ぶような打ち筋に、頭に血が上り冷静さを欠いたのだ。
気が付くと、この直撃でアカギは一気に逆転し、逆に3万点近い差をつけていた。

オーラスを迎え鷲巣は失速し、一方のアカギは完全に流れを掴むのであった。




妖術使い

5回戦のオーラスまで、赤木しげるは一度も相手に振り込んでいない。
失った点棒は味方の安岡への差し込みか、鷲巣のツモあがりのみである。
いかに4牌のうち3牌が透けて見える鷲巣麻雀とはいえ、降りてばかりはいられない。
なぜならば、アカギは1回でも鷲巣より順位が下回った途端死が待ち構えており、むしろトップを目指すため通常よりも前に出なければならないのだ。
ここまで4連続トップを取り続け、5回戦も断トツのトップに立っている。

この事実に気付いた鷲巣陣営は、赤木しげるの異様さに心の底から恐怖が沸き上がる。
眼前で不敵な面構えを崩さぬ若者は、まさに“妖術使い”に他ならぬのだと…。

今までも鷲巣のミスを咎め、つかの間有利に局を進める者もいた。
だが、“闇の王”鷲巣巌の尋常ならざる殺気を全身に浴びるうち、ものの30分もしないうちに気圧されていく。
ところが、目の前にいるアカギときたらどうだ。
鷲巣の恫喝にも全く怯む様子はなく、逆に“巨魁”鷲巣巌を手玉に取っているではないか。

部下たちは鷲巣のこんな醜態を見るのは初めてであり、もちろん鷲巣自身とて未経験である。
そしてオーラス、鷲巣巌はさらに追い詰められていく。

5回戦オーラス

5回戦のオーラス、鷲巣の手はとうとう枯れた。
それに反し、親のアカギは運気が上向き、鷲巣から3900点を直撃する。
当然、あがり止めを宣告し、5回戦もアカギのトップで終了すると思われた。

ところが、なんと!赤木しげるは続行を宣言する。
可能性としては限りなく低いとはいえ、万が一にも鷲巣が役満でもツモろうものなら逆転されてしまう。
そもそもが役満などと言わずとも、満貫をツモられるだけで例の血抜きのボーナスにより、ほぼ絶命に至るのだ。
ここは普段のルールでもあがり止めがセオリーであり、“敗北=即死”の鷲巣麻雀では尚更である。

仰木と安岡は止めるように説得を試みるが、アカギは全く聞く耳を持たない。
そして、赤木しげるはこう言った。

「一見もっともだが…仰木さん。ずれている…全て!いく時なんだよ今は…!勝って…勝って勝ち尽くす。搾り取る!生き血のように全てを…!最後の一滴まで…!」

本来なかったはずの南4局1本場が始まった。
案の定、配牌とツモが噛み合うアカギに対し、鷲巣は全く手にならない。
そして、またもや鷲巣はアカギに打ち込んだ。

今度こそ終了かと思いきや、赤木しげるはまたもや意表の言葉を言い放つ。

「続行だ…!2本場…!」

ざわ…ざわ…ざわ…

狼狽するアカギ陣営に、赤木しげるは言葉を継ぐ。

「まだまだ…鷲巣は今、全てが噛み合わぬ状態…死んだ犬のようなもの…!奪える!まだまだ…!」




不可解な連荘

2本場、3本場と満貫をあがるアカギ。
4本場も続行したアカギは5巡目、ついに満を持してリーチを打つ。
途中、徐々に運気が回復しつつある鷲巣もテンパイするが、結局アカギが倍満をツモあがる。

迎えた5本場、8巡目にアカギは再びリーチで攻めていく。
今回も安岡の手にあがり牌はなく、いわば保証のない命懸けのリーチである。
なにしろリーチをかけた以上、敵のロン牌を引いても切り飛ばすしかないのだから…。

どこまでも不遜な若僧を許さじと、負けずに鷲巣もテンパイし、無筋の牌を勝負する刹那のことだった。

「鷲巣様!お待ちください…!」

血相を変えながら、部下が叫んだ。

「あ…?」

怪訝そうな主に向かって、部下が説明する。

「分かりました!アカギの狙いが…!結論からいうと、今アカギに満貫を打つと終了します…尽きるんです!資金が…満貫で無くなるんです 金が…!」

真の狙い

事前輸血により、九死に一生を得たアカギ。
黄泉から甦ってからは鷲巣を翻弄し、ラス前で一気に抜き去った。
そして、オーラスも鷲巣から3900を直撃し、誰もがあがり止めを宣告すると思われた。

だが、ひとり赤木しげるだけは、不退転の覚悟で連荘を宣言する。
一見、何の意味もなさそうな連荘だが、実は鷲巣の破産を狙っていたのである。

たしかに5回戦の直前、鷲巣は虎の子の1億を追加して約3億もの潤沢な資金で臨んでいた。
ところが、南場に入ってツモあがりや直撃を何度も浴びるうち、ボーナス払いで約6000万もの大金を失った。
その結果、現在の残金は2億3350万まで減っている。
さらに純粋な素点のみならずオカやウマを加えると、20万点以上の大差がついていた。
つまり、1000点=100万の本ルールでは、20万点=2億円の換算となるのである。
諸々差し引くと残り約3000万まで追いつめられており、親の満貫を振った瞬間、直撃のボーナス払いを含め一気にパンクする。
つまり、その時点でゲームセットなのである。

ポーカーフェイスを装いながら、赤木しげるは虎視眈々と鷲巣の破滅を目論んでいた。
しかも意識を失い、指先に障害が出るほどの大量の血液を抜かれながら…。
げに恐ろしき赤木しげる…。

しかし、そんな悪魔のような20歳の若者も、実は余裕綽々だったわけではない。
ここまで強引な連荘をしていたのには理由があったのだ。

強運につぐ強運で勝ち続け、日本中の果実を独占し続けた神懸かり的な男。
その鷲巣巌という巨魁は、雌雄を決する最終戦では必ず奇跡的な剛腕を発揮する。
“そういう星のもとに生まれてきたはず”…赤木しげるはそう感じ取っていたのである。

「最終戦は手強い!」

その確信があればこそ、赤木しげるは力点をずらしにいったのだ。
6回戦ではなくその手前の5回戦に、そして鷲巣の豪運がもたげ出す前に…決着をつけてしまおうと勝負に打って出た。

傍から見ると、全くそんな思惑は見て取れない。
しかし、赤木しげるは場の気配を感じとり、ひとりオーラスを戦っていたのである。

そんなアカギ渾身の闘牌も“闇の王”の人間離れした嗅覚により、寸でのところで成就しなかった…。


アカギ-闇に降り立った天才 16(本作品収録巻)

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