5回戦
アカギの差し込みをあがらず、鷲巣の海底をずらすため鳴きを入れる安岡。
だが、これが…。
取り返しのつかないボーンヘッドとなるのであった。
神託
「裏っていったい…?アカギ…」
アカギの言葉の真意を理解できぬ安岡。
鷲巣の手牌は【東東⑤⑤⑤三五 明槓→六六六六 八八八八】の役無し聴牌となっている。
一方、鷲巣は自らの手牌に目をやると、一早く気がついた。
「あ…!なるほど!そうか…そういう事か…!」
鷲巣巌は雀卓の穴に手を入れ、心の中で念じた。
「ここだ!ここを引けば成る…この一点…!」
鷲巣が引き寄せた一牌、それは五筒だった。
「カン!」
これで、役無し聴牌が一気に三槓子に早変わりした。
しかも…。
こともあろうに明槓の六萬がカンドラに乗ってしまったではないか。
三槓子、ドラ4の跳満である。
恐るべし…“闇の王”鷲巣巌の豪運。
予想だにせぬ展開に、打ちひしがれる安岡。
もし、鷲巣がリンシャンでツモあがれば、親のアカギは6000点の支払いとなり600㏄の血液を抜かれることになる。
これまで採血された1400㏄とあわせ、致死量の合計2000㏄に達してしまうのだ。
だが、赤木しげるは全く動じない。
それどころか、はしゃぐ鷲巣を「いずれ分かる…!さっさと引け!」と一喝する。
そんなアカギへ殺意をたぎらせ、鷲巣はツモらんと渾身の力を込めた。
そして…。
あがり牌の四萬を…卓に叩きつけた!
三槓子、嶺上開花、ドラ4…。
文句なしの跳満が成就した…!
決着!?
「死ぬんだ…赤木しげる!お前は…!」
高笑いが止まらない鷲巣。
しかし、赤木しげるは死を目前にしながらも、全く表情が変わらない。
さすがの鷲巣も、赤木しげるの姿に感服する。
だが、無情にも採血が始まった。
まずは注射1本目250㏄…。
さらに2本目に移り、今回だけで500㏄を抜き取った。
これで今までの分と合わせ、合計1900㏄がアカギの体内から失った。
さすがの赤木しげるも意識が朦朧とし始める。
死神の姿がアカギの目の前にくっきりと現れた。
だが、人並外れた精神力で何とか持ちこたえている。
そして、3本目…。
残り100㏄の血液採取が終了した瞬間、まるでロウソクの炎が消えるようにアカギは卓上に倒れ込む。
人が完全に死に至る失血量、2000㏄に到達した。
「カカカ…キキキ…ケケケ…」
異様な笑い声を発した鷲巣は、勝利の雄叫びをあげた。
「決着だ…!奴の腕を叩っ切れっ!」
鷲巣の命令一下、部下たちは仰木を取り押さえる。
アカギが敗れた場合、仰木は腕1本失う取り決めになっていたのである。
鷲巣自ら日本刀を手に取った。
そして今、振り下ろさんと身構えた…。
輸血
その瞬間、卓上の雀牌が「ジャラッ」と音を立てた。
冥府に旅立ったはずの赤木しげるが甦ったのである。
大騒ぎする鷲巣巌に、アカギは静かに言った。
「輸血だよ…!」
「バカを言うな!お前は一度たりとも戻していない…!」
「その通りだ…入れていない。ここではな…!」
そして、驚愕の事実を告白する。
「簡単さ、この致死量越えの種は…お前との対決のために連れて来られた2週間前、俺は500㏄ばかり血を抜いておいたんだ!どうも、それぐらいがリミットらしい。その500㏄を今日ここに来る途中、病院に寄って戻したんだ。つまり、事前に輸血済みってことさ…!」
「なにい~っ!?きさま…!」
地団駄を踏む鷲巣を見て、アカギは笑いが止まらない。
「ククク…ここに来た時、本来の血液量に500足した状態だったわけさ!いうなら、隠し預金さ…あんた得意のな…!」
所感
夢想だにしない赤木しげるの告白。
その事実に、その場にいる一同全てが驚きを隠せない。
味方の安岡や仰木にも隠していたのである。
そして、“闇の王”鷲巣巌をしてこう言わしめた。
「なんてガキだ!前もって500㏄も血を足したら血圧は上昇し、勝負の初めヤツは相当体調が悪かったはずだ。だいいち…吐き気、頭痛、めまい、どんな異変が起こるか分からない…まるで、博打だ!勝負の前段階から博打なんてバカげているっ…!」
いや、数々の修羅場を潜って来た鷲巣だからこそ、アカギの行動の異常性が分かるのだろう。
つまり、酷い体調不良の中、ここまで赤木しげるは完璧ともいえる闘牌を繰り広げてきたということか…。
しかも、全くそんな素振りは見せずに…。
雀力はもとより、改めてその精神力には脱帽である。
そして、無謀に見えるアカギだが、実に用意周到だ。
死を恐れぬメンタリティだけでなく、打てる手は全て打つ策士の一面も窺える。
常に最善を尽くす赤木しげるらしいといえば、そうとも言える事前輸血である。
だが、そうは言っても一気に600㏄もの血液を抜き、合計で2000㏄失っているのだ。
思はぬ成り行きに小休止状態になっていることもあり、普通ならばもう少し休みたいところだろう。
当然、安岡たちもアカギに休むよう労わった。
ところが、まだ指先に痺れが残る中、赤木しげるは休息という甘美な誘惑を追い払う。
「違うな…それはまるで!行かなきゃダメさ…今!今弱っているのは俺じゃない…鷲巣だ…!」
「え…?」
話が見えない安岡に赤木しげるは言葉を継ぐ。
「ここで休むのは敵に塩を送るが如く…!逃すぜ、休んだら。鷲巣がこの勝負で初めて見せた厭戦感…揺らぎを!千載一遇なんだ…仕掛けなきゃダメさ今ここで…!さあ…言ってきてくれ。再開だ!」
赤木しげるはひとり、見抜いていた。
ぬか喜びの反動で、鷲巣巌の神懸かり的な生命力が煙っていることを。
あと数百㏄の採血で、間違いなく死が訪れる。
しかも、指先が痺れるほど失血のショックを引きずる中、冷静に勝機を嗅ぎ取る嗅覚。
それも全て、いついかなる時も怜悧冷徹さを失わない“神域の男”赤木しげるだから為せる業だろう。
今ここに、赤木しげるの反撃が始まった。
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