“MASTER OF LIFE”こと平賀=キートン・太一。
彼は大人だけでなく、年端もいかぬ子どもにも好かれる “人生の達人”である。
悲しみに暮れる少女の心を救ったもの。
それは、マスターキートンの優しさだった。
ストーリー
フローラは、10歳のちょっとおませな女の子。
父親を交通事故で亡くした後、母親と二人で暮らしているが上手くいっていない。
フローラはクリスマスのお祝いのため父方の祖母の家に遊びに向かうも、その日以来帰って来なかった。
息子を亡くした祖母が、孫娘を自分のものにしようと画策したからだ。
母親から依頼を受けたキートンは、フローラを迎えに祖母の家に向かうのだが…。
フローラの悲しみ
フローラは一見すると生意気で気位が高く、いけ好かない少女の見本のようである。
だが、本当は孤独を胸に秘めた可哀そうな女の子なのだ。
生前の父親はフローラをとても可愛がっていた。
ところが、妻には暴力をふるうだけでなく、よそに女を作るなど酷い亭主であった。
そんな夫に冷めた妻は、他の男と恋仲になってしまう。
しかも、母親と浮気相手アランとの逢瀬を、こともあろうかフローラは目撃してしまう。
その時の「あなたのキスってラザーニェの味がするわ」という母親の言葉を聞いてから、ラザーニェが大嫌いになり母を憎むようになったのだ。
大好きな両親のこんな醜態を見せられた少女の心は、一体どこに向かえばよいのだろう…。
きっと誰も頼れる者もなく、深い悲しみと絶望感に打ちひしがれていたに違いない。
さらに、最愛の息子を嫁のせいで亡くしたと思い込み、復讐のために自分を取り上げようとする祖母に対しても、フローラは嫌悪感を隠せなかった。
キートンの優しさ
祖母のもとから逃避行を図るキートンとフローラ。
心に深い傷を抱えた少女を、あたたかい優しさで包み込むキートン。
そして、そんなキートンにフローラは徐々に心を開いていく。
フローラにとってキートンは、初めて心から信用できる大人だったのかもしれない。
道中、フローラはキートンが離婚し、独身であることを知る。
寂しそうなキートンに、「結婚してあげてもいいのよ」と持ちかけるフローラ。
「嬉しいけど…私には娘がいるんだ」と笑顔で答えるキートン。
このやり取りだけでも、キートンの優しい人柄が伝わってくる。
相手は10歳の少女である。
こんなお子ちゃまに上から目線で言われたら、小ばかにした態度をとる男性もいるだろう。
だが、キートンは決して相手が子どもでも、下に見ることなく礼を逸しない。
その晩、フローラは悪夢にうなされる。
母親が笑いながら、父とフローラの乗る車を崖から突き落とす夢だった。
実際は、飲酒運転をした父親がスピード違反を犯し、崖から車ごと転落して亡くなったのである。
泣きじゃくるフローラの傍らに寄り添うキートンに、少女は自分の思いを打ち明ける。
「私、ひとりぼっちなのよ。パパが死んでから1年も経たないのに、ママはアランって人と再婚しようとしているのよ…ひどいと思わない?私、生きていたくない…」
今にも消え入りそうなフローラに、キートンは優しく語りかける。
「君のママは君をひとりぼっちになんかしないさ。アランとの結婚をやめるって言ってる…。一人の人間が自分以外の人のために、人生の幸せを犠牲にするのは大変なことなんだ。たとえ親と子でも…」
壊れそうな自分と真摯に、そして誠実に向き合おうとするキートンに、フローラの心は癒されるのであった。
少女から淑女へ
ついに、キートン一行は祖母に見つかってしまう。
一緒に来るよう催促されるフローラは、決然と母親のもとに戻ると言い放つ。
「ママを愛しているの!」
キートンと共に旅した中で、母親の気持ちを理解できる本当のレディへと成長を遂げたのだ。
国境が近づき、別れのときが迫る中、フローラは「私が大人になるまで待ってくれる?そうしたら、一緒にダンスを踊ってくれる?」とキートンに不安気に尋ねた。
実は、フローラは逃避行の最中、キートンにダンスの誘いを体よく断られていたのである。
すると、キートンはフローラの手を取った。
「お嬢さん、今踊りましょう」
「でも…人が見てるわ。それに…こんな子どもと踊るのいやでしょ?」
戸惑うフローラの目を見つめながら、キートンは言った。
「いいえ、昨日までとは違う。君は立派なレディだ」
美しい月夜がステージに華を添えるよう、キートンとフローラを照らす。
ふたりが躍る姿、それはまさに紳士と淑女そのものだった。
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