「闇に降り立った天才」赤木しげるの名言・名場面 ⑫『布石』

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浦部の心理を看破し、アカギ節を炸裂させて、ついに卓に着く真打ち。

しかし、現実的には残り4局という場面で28400点ものビハインドは、いかなアカギでも苦しい状況である。

果たして、逆転の秘策やいかに…。


アカギ-闇に降り立った天才 5(本作品収録巻)

謎の打ち回し

再開した南1局、アカギはいきなりリーチに打って出る。
これだけの点差を追いかける立場だというのにリーチのみで、しかもカンチャン待ちである。
浦部は無理をせず、まわし打ちをしながらツモあがった。

次局も、アカギはノミ手で愚形リーチをかける。
しかも、浦部から当たり牌が出たというのに、あがりを見送った。
一方の浦部は、またもやツモあがる。
しかし、アカギの手を見たいと考え、浦部は敢えてあがらない。
流局し、「テンパイ」と手を倒す浦部に対し、赤木しげるは「ノーテン」を宣言し手牌を伏せた…。

ノーテンリーチの罰符により、さらに8000点失うアカギ。

先ほどの浦部のあがりと併せ、その差は45000点以上まで広がった。

やり直しの南2局、アカギは強烈な引きを見せ、瞬く間に四暗刻を聴牌する。
これだけの悪手を連発しながら、常人の計りを遥かに超えた流れ…。
やはり、赤木しげるだけは理解の範疇を超えている。

アカギの待ちは三三三四五五五という万子の形で、二三四五六万待ちである。
高目の四万が出れば、役満の四暗刻である。
何が何でも役満に仕上げたいところだ。
ところが、アカギはオープンリーチに打って出た。

浦部も万子の清一でテンパイを果たしていたのだが、万が一の役満ツモを恐れ、二万を抜き打ちアカギに差し込んだ。
だが、アカギは「寝ぼけるな…続行だ!ケチな点棒、拾う気なし!」と言い放ち見逃してしまう。
役満とはいかずともマンガンあるので、浦部からの直撃で16000点差が縮まるというのに…。

結局、アカギはあがり牌の六万をツモ切り、浦部の清一に振り込んでしまう。
そして、とうとう二人の点差は7万点を超えた…。

まるで、酷い泥酔者のような醜態を晒すアカギ。
絶望的な点差を前に、誰もが浦部の勝利を確信した。




布石

ここまでのアカギの打ち筋を見ると、不可解のひと言に尽きるだろう。
対局者がアカギでなければ、気が触れたと思われても仕方ない。

では、アカギの真意は一体どこにあったのだろうか。

まず、2局続けてのノミ手リーチである。
本来ならば、少しでも点差を詰めるべく、なるべく大物手を作る努力をする場面だろう。
なにしろ、約3万点もの差があるのに南入しているのだから。
アカギはあの2局リーチこそかけたが、あがる気など毛ほどもなかった。
それは南2局を見れば明らかである。
浦部から出た愚形リーチも見逃し、あまつさえ流局後、ノーテンを宣言しチョンボの罰符を払っている。

その理由は、アカギは自らの手の内を見せたくなかったからだ。
そして、浦部がリーチにどう対応するのかを観察していたのである。
点棒という利よりも自分の手牌を相手に見せぬことで、情報戦を制すことを選択した。
自分の打ち筋を敵に悟らせぬことは、必ずや勝負所の場面で効いてくるとの大局観。
現実的に見れば、残り少ない局数でこの失点はあまりに痛い。
にもかかわらず、惜しみもなく点棒を捨てる赤木しげる。
再三再四にわたって見せる「身を捨ててこそ」という覚悟のほどが窺える。

挙句、オープンリーチまでかました上に浦部が差し込みに来た二万も見逃し、ツモった六万も切り飛ばす。
浦部からすれば、もはや訳が分からない。
これまで培ってきたセオリーには全くないからだ。
このやり取りで、浦部からすれば点棒こそ拾ったが、アカギという物の怪に対するイメージは不気味さを増していく。
アカギに対する情報は暗中模索のまま、気が付くと点棒だけは圧倒的な大差になっている。
そうなると、もう無理はせず、人は逃げに回る心理が働くのが常だろう。

実は、自分の前に治を代打ちにして送り込んだのも、外から浦部の対応を見るためだった。
我々凡夫には意味不明にしか映らなぬ赤木しげるの言動は、全て戦略という名の積み木に基づいてのものだった。

赤木しげるはかく語る。

「麻雀に勝つには、その人間の根っこ…潜在意識に根差した原始的思考の流れを見定めなければならない」と。

浦部のような百戦錬磨の打ち手ほど相手の正体を見定め、手の内に入れて勝負したいはずだ。
ところが、相手の姿が見えず戦うことにより、土壇場になればなるほど息苦しい感情に支配されていく。
そして、不安と恐怖に絡め取られた浦部は、命綱ともいうべき視界を疑心暗鬼という暗雲によって奪われた。

この壮大な赤木しげるの戦略は次局、夢想だにしない形で結実する…。

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