ときは、高度経済成長期真っ只中の昭和39年。
漆黒の闇から突如現れた、赤木しげるの伝説の闘牌から6年が過ぎていた。
しかし、歳月を経ても、その記憶は裏世界の住人たちの脳裏から離れることはない。
沈黙を破り、再び赤木しげるがギャンブルの深淵に降臨する。
ニセアカギ
忽然と姿をくらましていたアカギ。
なんと!あの赤木しげるが今はおもちゃ工場で働いているという。
地道に労働に勤しむなど、この男には最も似つかわしくない姿だろうに…。
さすが、期待を裏切らない。
そんな折、“盲目の雀士”市川との死闘の現場にいたヤクザを通じ、自分を騙るニセアカギの存在を知らされる。
しかも、あの悪徳刑事・安岡がプロデュースしているという。
話の流れから、ニセアカギと対面することになる。
たしかに、ニセアカギは本家と風貌も似ており、非凡なセンスも有している。
だが、賢しら顔で確率論を滔々と語る姿に、アカギは辛辣な言葉を浴びせかけた。
「なるほど…凡夫だ…的が外れてやがる!」
とりあえず顔を拝むだけのつもりだったアカギだが、こうなってはニセアカギも黙ってはいられない。
アカギを挑発し、成功確率3%未満の勝負を吹っ掛ける。
それは伏せられた9牌のうち3牌を引いて、一索・四索・一萬の全てを引かなければ負けとなる勝負だった。
常識的に考えれば、こんな分の悪い勝負を受けるはずもない。
ところが、赤木しげるは受けて立つ。
「面白い…渡ってみせよう!その綱」
だが、ただでは勝負の土俵に上がらないのがアカギ流である。
「ただし…それだけ自信満々に吹っ掛けてきた勝負だ。腕一本かけることになっても文句はないな?」
狼狽するニセアカギ。
「バカな!受けれるわけないだろう!どんなに低い確率でもゼロではない。腕を賭けるなどという取り返しのつかない、そんなバカバカしいギャンブルは受けれるわけがない。つまり、“無意味な死”など、ごめんだと言うことだ!」
「フフ…」
不敵な笑みを浮かべながら、赤木しげるは言った。
「その“無意味な死”ってやつがギャンブルなんじゃないのか…」
そして、続ける。
「要するに、おまえはギャンブルという土俵に上がってない。だから、ギャンブルを脳味噌からひねり出した確率なんかで計ろうとする。見当違いもはなはだしい。背の立つ所までしか海に入ってないのに、海を知っていると公言しているようなもの…」
やり取りを見ていたニセアカギお抱えの組長が、腕の代わりとばかりに200万をポンと出し、勝負を促した。
圧倒的不利な条件の下、赤木しげるは牌を透視するように見つめる。
「何をじっと見ている?そうすりゃ牌が透けて見えでもするのかね?」
小馬鹿にしたような口を叩くニセアカギに、赤木しげるはじっと牌に視線を落としながら言った。
「そうさ…それぐらいの感覚がないようでは、とても生き残れなかった…この6年間」
そして、こともなげに3牌を引き当てる赤木しげる。
19歳になっても、その神通力は全く衰えを知らなかった…。
所感
まず、あの赤木しげるが玩具工場で働く意表の演出に驚かされる。
13歳のとき、チキンランで戦った不良相手に、 玩具は玩具でも拳銃という“ヤクザの玩具”をぶっ放していた男が…。
だが、やはり赤木しげるは健在だった。
わずか数%にも満たない確率をはねのける、異端の嗅覚。
「あの男には関わり合うな…そっとしておくんだ。虎の尾をわざわざ踏むことはない…奴は“別”なんだ…」
その場に居合わせた安岡が、ニセアカギに説いたこの言葉…。
これが何よりも、赤木しげるを雄弁に物語っている。
6年前の嵐の夜、代打ち・矢木と対決した赤木しげる。
そして、市川との常識を超えた闘牌。
それを目撃した安岡は、誰よりも赤木しげるの異才を皮膚感覚で熟知していた。
だが、私はその神技よりも琴線に触れたことがある。
それは、「それぐらいの感覚がないようでは、とても生き残れなかった…」という台詞である。
この発言が意味するもの…。
少々のことでは、赤木しげるがそんな言葉を宣うはずもない。
この6年間、一体どんな苛烈な人生を歩んできたのだろう。
きっと、私のような凡夫には想像すらできぬ修羅場を潜り抜けてきたに違いない。
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