「タカコさん」は、「ワカコ酒」で有名な新久千映が作者です。
その「ワカコ酒」とは少しテイストを変えた本作は、主人公・松前タカコの優しい雰囲気どおりの作風です。
仕事やSNSに追われ、とかくせわしい時間を過ごす現代人。
そんな我々に、つい忘れがちな大切なことを思い出せてくれるタカコさん。
たまには世の中の喧騒から離れ、タカコさんと一緒に、のんびりしていきませんか。
ストーリー
人より少しだけ耳が良いタカコさん。
普段は「たまえレストラン」のウエイトレスとして働く26歳の女性です。
風貌は可愛らしいのですが、黒目が大きすぎる少しホラーがかった人形のようでもあります(苦笑)
そんなタカコさんはいつもニコニコしており、“ノーといえない日本人”の典型のようなおとなしい性格です。
なので、学生時代からの親友・湯川ヒロには、いつもストレスを溜めていないか心配されています。
「この子は本当に、世知辛い東京砂漠で生きていけるのだろうか…」と。
ですが、タカコさんは自分の長所を活かして、些細なことに日々幸せを感じて生きています。
そう!それは“何の自慢にもならない、履歴書にも書けないレベルの”耳の良さでした。
やさしい世界観
「タカコさん」という漫画を見て思うのは、とある禅語です。
“風は 花裏(かり)より 過ぎ来たって 香し(かんばしし) ”
簡単に言うならば、“野に咲く花々の間を吹いてくる風は、とても香りがよい”という意味になります。
皆さんにも経験があるのではないでしょうか。
ピクニックやハイキングなどに出かけて、咲き誇る花々の中を歩く時、とても芳しい香りに心が癒されたことを。
実は、この言葉が真に意味するところは、自然界で織り成す営みを人の世の在り様に落とし込んだものなのです。
吹く風に芳香が漂うのは、美しい花々の間を流れてくるからです。
もし、風がどぶ川や澱んだ空気の中を流れて来たら、芳しい香りはしないはずです。
つまり、感じの良し悪しや身に纏う空気感は、その人がどういう環境で人生を過ごし、そしてどのような心を持つかによって決まるのです。
翻って、本作の主人公・タカコさんも“風は 花裏より 過ぎ来たって 香し ”を思わせる、穏やかで頬に優しい薫風のような人物です。
前述したように、タカコさんは耳が良いんです。
様々な音が入り乱れる“騒音天国”東京に住んでいることもあって、耳にノイズがひっきりなしに残響し、さぞや辛い毎日を過ごしているのでは?と思う方もいるでしょう。
ところが、逆なんです。
家に帰ると、タカコさんはベランダに向かいます。
そして、遠くに近くに聴こえる様々な音に耳を傾けます。
すると、そこには人々の幸せな“息づかい”が聴こえて来るのです。
そのひと時が、タカコさんにとってかけがえのない心休まる時間なのでした。
実は、その“息づかい”こそが、タカコさんにとって大切なサインでもあったのです。
人は良いことがあっても、悪いことがあっても、普段の“息づかい”とは異なります。
その微妙な変化に気付くことが誰かの支えになるのだと、タカコさんは今日も耳を澄ませているのです。
ですが、タカコさんも学生時代、悪意の籠った言葉の刃で傷つけられたことがありました。
元々、口数の少ないタカコさんは笑顔で黙って、友達の話を聴いていることを日常としていました。
ところが、そのことをこれ見よがしに嘲笑されたことが、今でも時々、心の柔らかい部分に棘のように刺さって来るのです。
そのたびに「自分はこれでいいんだ」と言い聞かせていました。
ある時、「タカコさんはいつも笑っているよね」と同僚に言われます。
学生時代と同じような言葉なのに、その響きはとても温かく、タカコさんの心を救います。
「私は、このままでいいんだ…」
心から自分を認めることができたタカコさんは、晴れやかな笑顔を浮かべるのでした。
まとめ
ちょっと人より耳が良いタカコさん。
彼女を見ていると、ほんの些細な日常の中にこそ、幸せの種があるのだと気が付きます。
この作品を読むと、図書館の児童室でお母さんに読んでもらった絵本や、放課後に学校の図書室で夢中になった懐かしい物語を思い出します。
ちょうどこれからは、生命が輝く季節“春”を迎えます。
皆さんも、どうでしょう。
少し街や自然の中を散策し、人々の息づかいや自然の息吹に耳を澄ませてみませんか。
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