時を同じくして、ガースケが担任を務める4年3組の生徒ふたりが、ガースケとマチャコの下へそれぞれ恋の相談にやって来た。
その生徒とは梨花と和雄である。
梨花はガースケに、和雄はマチャコに恋の悩みを打ちあける。
このふたりに恋愛相談をするのは、少々的外れのような気もするが…。
さてさて、恋の結末やいかに…。
ストーリー
梨花が好きなのは、同じクラスの徹である。
一方、和雄の意中の相手は、なんと!梨花だったのだ!
梨花は徹に好意を寄せていることを態度で示し、自らの誕生日会にも招待する。
初めこそ、徹は照れくささもあって素っ気ない態度をとるが、やがて相思相愛の仲になっていく。
そんなふたりを見て、悲しくなる和雄。
そんな中、梨花が転校することになり、寂しさを隠せぬ梨花を励ます会が催されることになる。
そこでも、クラス公認の仲の梨花と徹は、仲睦まじい姿を見せていた。
その様子に、いたたまれない気持ちになった和雄は、嘘をついて会を抜け出した。
だが、抜け出したものの、和雄は涙が止まらない。
和雄の異変を察知したガースケは、悲しみに暮れる教え子を慰める。
そして、明日の朝、梨花がこの街を去って行くことを告げた。
悔いを残さぬよう、和雄はガースケと一緒に、梨花を見送りに行くことを決心する。
翌朝、見送りにくるはずの和雄は、時間になっても現れない。
梨花が去ろうとする、まさにその時、マチャコに連れられて和雄が息を弾ませやって来た。
そして、ふたりは最後の別れをするのだった…。
所感
悲喜こもごも
私にとって、この『小さな恋の物語』は名作ぞろいの本ドラマの中でも、一二を争うほど好きな話である。
後述するが、それは和雄という生徒に深い感銘を受けたからだ。
美少女の梨花と少しどんくさい和雄。
いきなり、前途多難な予感が走る。
やはりというべきか、梨花が好きなのは徹という、チョットかっこいいクラスメイトであった。
大好きな梨花の誕生日会に呼ばれたのは、自分ではなく徹という悲しい現実。
それに追い打ちをかけるように、梨花の引っ越しが決まる。
思わず、腰を抜かす和雄。
ある日、梨花と和雄は偶然街で出会う。
すると、梨花は和雄の靴ひもがほどけていることに気付き、結んであげる。
好きな女の子に親切にされ、ますます募る恋心。
だが、和雄はそっと遠くから見つめることしかできなかった。
和雄の切ない想いをよそに、引っ越しの日が近づいてくる。
それと並行して、「梨花を励ます会」の準備も進んでいった。
当日は、ガースケたちの渾身のステージパフォーマンスもあり、クラスみんなで盛り上がった。
だが、和雄だけは浮かない顔である。
一人ずつ、梨花への励ましの言葉を送る中、和雄は塾があると嘘をついて帰ってしまう。
今日の主役は梨花ともう一人、梨花が恋する徹なのである。
ふたりへの祝福ムード漂う催しは、和雄にとってはあまりも酷だった。
肩を落とし、ひとり廊下を歩く和雄の姿は、とても見るに忍びない。
和雄の気持ちに気付いたガースケは追いかける。
すると、校舎の裏で涙を流す和雄がいた。
和雄を見ていると、ふと、この世の理を思い出す。
「勝者あるところに敗者あり。光あるところに陰がある」
梨花と徹がうまくいくということは、同時に和雄の幸せが遠のいていくことを意味する。
世の常とはいえ、言葉もない。
ガースケはそのまま、和雄を自宅に連れてきた。
落ち込んだ和雄にカレーをご馳走するためである。
それは、故郷北海道のジャガイモをふんだんに使った、ガースケ特製のスペシャルカレーだった。
ガースケは、カレーを食べている和雄を励ました。
そのガースケの言葉に、和雄は訥々と自分の想いを話し出す。
すると、ガースケは和雄の胸に拳を当てて語りかけた。
「痛いんだろ。この辺がよ…痛くて、重くて、モヤモヤしてんじゃねぇか」
切ない表情を見せる教え子に、ガースケは続けた。
「梨花の引っ越しは明日の朝だ。明日、あの子は行っちまう。一緒に見送りに行こうぜ…なぁ」
涙をこらえきれぬ和雄は、コクリと頷いた。
「ほら、食え!ジャガイモカレー。いいか、和雄…不格好だけど、うまいんだぞ」
不器用で口下手な和雄は、うまく自分の気持ちを表現できない。
でも、もちろんガースケには伝わっている。
だからこそ、和雄の心に寄り添いながら、不本意に終わった「励ます会」での心残りを解消しようとする。
そして、最後に和雄に語りかけた「不格好だけど、うまいんだぞ」という言葉。
それは、まさに和雄を言い表した箴言であろう。
ガースケも和雄も、決して見た目が良いとは言えない。
だが、とてもやさしい心の持ち主だ。
それこそ、それが二人の“一番星”なのである。
和雄とガースケ、それぞれの想い…
翌朝、約束の時間になっても和雄は現れない。
ヤキモキするガースケをよそに、梨花の出発の時間が迫っている。
去ろうとする梨花に、「和雄が見送りに来るんだ。お前が好きなんだよ。話があるんで聞いてやってくれねぇか…だから、もう少し待ってやってくれねぇか」
ガースケは必死に引き留めるが、和雄の気持ちを知った梨花は困ってしまう。
それは、そうだろう。
梨花が好きなのは徹であり、今や相思相愛の関係なのだ。
その時、マチャコに連れられて、和雄は息を弾ませながら走って来た。
しかも、疲労困憊のあまり、梨花の前で転びながら…。
その手には、梨花の誕生日に渡そうと思っていた白いリボンがあった。
かわいい髪型が似合う梨花の美しい髪にピッタリのプレゼントだ。
ガースケに促され、梨花の前に立つ和雄。
だが、梨花は顔を曇らせ視線を落とす。
「あの…」
呼吸が整わない和雄は膝に手を当てながら、懸命に別れの言葉を紡ぎ出す。
次の瞬間、和雄の口から発せられた言葉に、梨花は驚きを隠せない。
「あの…徹は良いやつだから…良かったね」
滴る汗もそのままに、和雄はとびっきりの笑顔でそう言った。
「これ、梨花ちゃんに似合うんじゃないかと思って。木更津に行っても、元気で頑張ってください」
梨花のために用意した、白いリボンを手渡した。
受け取る梨花は「ありがとう!和雄君も元気でね!」と明るい笑顔で礼を言う。
そして、手を差し出した。
「さようなら」
梨花の手を握りながら和雄も言った。
「さようなら」
「じゃあ、さようなら」
ガースケとマチャコに頭を下げて、梨花は去っていく。
思わずガースケは、梨花の後ろ姿に語りかける。
「いいか梨花。どこにいようとなぁ…梨花が見上げる空は、みんなが見上げる空と同じだからよぉ…もし、つらいなぁって…しんどいなぁって…思うことがあっても、ひとりで俯いたりすんじゃねぇぞ…」
ガースケの声をまばたき一つせず、じっと聞き入る梨花。
すると、少女の澄んだ瞳が、みるみる涙でいっぱいになり零れ落ちる。
そして、最後に梨花はガースケを真っすぐ見つめながらコクリと頷いた。
少女の胸に沁みるガースケの心からのメッセージ。
そして、去り行く梨花に、ガースケはエールを送った。
「フレー!フレー! 梨~花 !」
すると、和雄も負けじと精いっぱい声を出す。
「フレー!フレー!梨~花! フレ!フレ! 梨~花 ! フレ!フレ! 梨~花 !」
梨花は振り返ると、感涙を流しながら、ふたりに手を振った…。
この一連のシーンは、「みにくいアヒルの子」の中でも屈指の名場面だと感じた。
自分の想いを心にしまい、梨花の気持ちを優先する和雄のいじらしさ。
人は誰もが、自分の人生においては己が主役だろう。
にもかかわらず、和雄は自分の気持ちをゴリ押しすることよりも、相手の心を思いやり行動に移したのだ。
好きな子の心に寄り添いながら犠打を打てる和雄に、私は深い感銘を受けずにはいられなかった。
まさしく和雄は、ガースケの言う「不格好だけど、とってもおいしいジャガイモカレー」そのものではないか。
そして、ガースケの生徒を思う気持ち。
万感の思いを込め、梨花に語りかけるガースケの姿は胸に迫る。
去り行く梨花の後ろ姿を見た時、亡き最愛の教え子・清の面影が、ガースケの脳裏をよぎったのではないか。
「どんなに辛く悲しいことがあっても、俺たちは同じ空の下にいる。そして、青空の下でつながっている。だから負けるな!」
きっと、ガースケは清にも同じ言葉をかけてあげたかったに違いない。
最後に届けた、ガースケと和雄の梨花への応援メッセージ。
体いっぱい、声いっぱいを振り絞り、伝えたエールは清を思い出す。
級友と恩師の想いをしかと受け止め、深い感謝の意を表す梨花。
3人の美しい心が織り成す、観る者全ての魂を揺さぶる感動の名場面といえるだろう。
私は思う。
たしかに、梨花が恋したのは徹かもしれない。
しかし、母校での思い出で最も深く心に刻まれたのは、ガースケと和雄、そのふたりと心を通わせたあの瞬間だったのかもしれないと。
梨花を乗せた車が動き出す。
それを、和雄は見つめてる。
やがて、遠く見えなくなった…。
和雄は下を向き、あふれる涙を堪えてる。
そんな和雄にマチャコは言う。
「強がっちゃって。どうして好きだって言わなかったの?」
「いいんだよ…これでいいんだよ。いいんだよな?」
和雄の頭に手を置いて、ガースケは全てを肯定するように問いかけた。
頷きながら、和雄はガースケの胸に顔を埋める。
ガースケは空の匂いがした…。
コメント