みなさんは、「BARレモン・ハート」というテレビドラマをご存知だろうか。
原作は「漫画アクション」で連載していたマンガであり、それをBSフジでドラマ化した。
本作は酒をメインテーマに、BARという空間に粋な酒を嗜みに集う、様々な大人たちの人間模様を描いている。
酒好きには各銘柄にまつわる歴史やエピソードも楽しむことができ、酒に興味がない方にも純粋なヒューマンドラマとして鑑賞できるだろう。
実写化にあたり、主人公のマスターを中村梅雀が演じ、常連客のメガネさんを相棒でお馴染みの川原和久、松ちゃん役には名バイプレイヤーとして存在感を示す松尾諭をキャスティングする。
3者とも原作のコミックと風貌が若干異なるなど、当初は一部の視聴者から違和感を覚えるという声もあった。
だが、原作では四角四面顔のマスター役を丸みのあるシルエットの中村梅雀が演じるものの、その温かい人柄や悠揚迫らぬ物腰に、多くのファンが納得のキャスティングだと膝を打つ。
また、これはあくまでも個人的な嗜好のため大変恐縮だが、私は特にメガネさんの独特な雰囲気が気に入ってしまった。
何というか、癖の強さがたまらないとでもいうのだろうか。
その他の常連客も芸達者な俳優陣が脇を固め、大人のための上質なドラマに仕上がっている。
私のような原作を読んでいない者からすると何の違和感もなく、むしろ適材適所の配役としか思えない。
このドラマを鑑賞して感じたのは、マスターの恩師ともいうべき人物が作中のある場面で語った言葉ほど、「BARレモン・ハート」という作品の要諦を表わしたものはないということだ。
その人物は、BARレモン・ハートの店内とマスターに目をやりながら、しみじみと噛みしめるように語り出す。
「マスター。私は、BARというものはその街の小さな劇場だと思う。劇場ごとにそれぞれの色合いはあろうが、そこで生まれるドラマには筋書きがない。喜劇もあれば、悲劇もあり、出会いがあれば、別れもある。その物語を彩るのが多くの酒であり、そして…バーマンだ」
そして、「君の素敵な劇場のために」と締めると、マスターとグラスを傾ける。
深い味わいと含蓄、そして何よりも名作の予感が走る素晴らしきシーンであった。
ドラマを観終わった後に、ほのかな灯があなたの心を照らす、そんな大人のための寓話「BARレモン・ハート」。
その名場面を気の向くままに紹介していくので、お待ちいただきたい。
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